1. 応急処置

座礁直後に機関をfull astern(全速後退)にして離礁を試みることは危険です。すなわち船体の状態・周囲の状況を調べずに直ちに離礁作業を行った場合、船体損傷の拡大と再度の座礁、浸水による沈没の危険が大きいためです。そこで第一に行うべきことは座礁状態の調査です。例えば、潮の干満差が大きい場所で座礁した場合には、それが低潮時であれば次の満潮で自然に浮揚することもありますが、逆に満潮の時であれば浮揚が困難なだけでなく低潮時に船体を損傷させる恐れがあります。よって調査の目的は、座礁の状況を正確に把握して適切な対策を立てることであり、調査項目は下記の通りです。

本船の状態の調査項目

次の項目をできるだけ正確に調査します。

  • 座礁日時、場所、陸岸との距離
  • 座礁状況(海底との接触箇所・状況、座り具合、船首方向、傾斜)
  • 浸水箇所、およびその状況
  • 船体および積荷の損傷状況、油漏れの有無
  • 舵および推進機の状況
  • 積荷の内容、ホールド別積載量
  • 積荷の瀬取りまたは、投荷の可否
  • 天候、風向、風力、波浪、うねりの状況
  • 吃水・トリム(座礁前と座礁後)
  • 座礁前と現在の各タンクの量
  • T.P.C(Tons per Centimeter
  • 本船の周囲の水深(座礁時、高潮時、低潮時)
  • 海底の凹凸の状況
  • 潮流(流速、流向)、干満の差、潮時

上記調査結果を総合判断して、次の作業に移ることが大事です。

(1)自力離礁

調査の結果自力離礁の見込みがあると判断されたときは、必要な準備を整えた上で波浪、干満の差などを利用し、機関、錨を使用し離礁に努めます。この場合も、事情が許す限り、船長判断で自力座礁を試みる前に、会社に上記座礁の状況を連絡し、会社の指示に従うことが望ましいものです。なお、吃水の軽減やトリムを変えるために積荷などを移動したり、瀬取りや投荷をするときは経済性や有効性についても十分に検討した上で着手する必要があります。

(2)船固め

座礁した場合は、波浪による動揺や移動による状態の悪化、または、損傷拡大防止のために船固めにより船の安定を図ることが必要となります。
船固めには次のような方法がありますが、そのうちで本船が実行可能な方法を採用します。

(a)錨、錨鎖、ワイヤーによる方法

船首錨、予備錨に錨鎖またはワイヤーを固縛し、これを外力(波、潮)の大きな方向および捲き出す方向に、なるべく遠い所へ投入し十分緊張させます。
この場合必要に応じて付近の漁船などの使用も考慮することが必要です。

(b)陸張り

陸上に根岩や巨木がある場合は、陸張りワイヤーをこれに固縛します。また岩のない砂浜のような場合は、地面に大穴を掘って丸太を入れ、これにつなぎとめる方法もあります。

(c)漲水

底質が平坦で岩礁のないような場所で、かつ船底と海底との接触状態が良好なときは、二重底タンク(場合によってはホールド)に注水し、吃水を深くして船体の動揺を防止します。
ただし、船底の接触状態が悪いときや波または潮流によって船底接触状態が悪化するおそれがあるときは、船内に注水するとかえって損傷を増大させて船体の屈曲または折損を招くことになるので、むしろ船を軽くすることを考慮する必要があります。

参考資料:海底の質とその特徴

(a)泥土

海底の質が軟かく、かつ平坦であるから、船底を損傷することがないので、救助は比較的容易である。しかし浸水し浮力を失った状態で欄坐した船とか、または沈没した船は、船体(および積荷)の全重量に耐えるだけの力のない泥土のところでは、船体は沈下する。ことに水流、潮流の速いところでは、船首と船尾下の海底が掘れるため、泥の深いところでは、船体は泥土の中に完全に埋没することもある。

(b)砂

海底が砂のところは平坦で全体としては柔軟であるから、浸水するようなことはあまりないので救助成功率が高い(ただし、船が動揺すると船底全般に広く浅い凹損を生じ、予想外に多額の修繕費がかかることが少なくない)。
ただ外洋に面した波の高い砂浜に坐州すると、船首と船尾下の海底の砂は波のため深く掘れて、船はHoggingの状態になり、石炭、鉱石などの重量物を満載した中、大型船は、1~2昼夜で船体が折断するという恐るべきことが、ほとんど不可避的におこる。
また海底の堀り下げは、波の静かなところでは容易であるが、波があると、すぐ埋って効果がないので救助に種々の方法がとられている。

(c)砂かぶり平盤

比較的平坦な岩盤、いわゆる平盤の上に砂がかぶっているところは、波のため擱坐船の船首尾下の海底が掘れ、船体が折断するなどの危険はないから、水深が甚だしく不足し、海底の堀り下げを行わねばならないときの他は、救助作業上、最良の底質といえる。

(d)砂利、小石

砂に比べ局部的には凹凸は激しい。しかし全体的には平坦であるから、砂浜とあまり大差はない。

(e)玉石(たまいし)

頭人の丸い落ち石のみのところは、それ程ではないにしても、直径50cmから、大きいものは1~2mもある玉石が点在するところでは、凹凸が激しく、それだけ擱坐船の船底を損傷し浸水を来たす。ただ落ち石であるから、これを撤去して海底を堀り下げることは比較的容易である。

(f)岩盤

岩盤は質と形状が種々雑多であるから、一概には言えない。しかし多くの場合、座礁した船の船底を損傷し、浸水を来たす。またHoggingあるいはSaggingの状態となって船体を屈曲、または折断することも少なくない。海難救助がもっとも難しいのは海底が岩盤のところに擱座した船である。

(g)珊瑚礁

珊瑚礁の場合、内部は軟かく生木のような質であるが、表面30~60cmは硬く、かつ凹凸しているため、硬質の岩盤ほどではないにしても、座礁船の船底に相当の損傷を与える。一般的には、珊瑚礁は硬質の岩盤より良好といえるが甚だしく岸深のため船固め、捲き出し錨を十分に利かせられないところに最大の難点がある。

(横田貞一著“海難救助”より)

2. 本船からの連絡事項

会社への連絡事項は下記の通りです。本船から連絡が入り次第当社へご連絡ください。

座礁事故報告項目

  • 出帆地、仕向地
  • 座礁日時、場所、陸岸との距離
  • 座礁状況(海底との接触箇所・状況、座り具合、船首方向、船体傾斜)
  • 船体の損傷状況、浸水箇所およびその状況
  • 現場の天候、風向、風力、波浪、うねりの状況
  • 潮流(流速、流向)干潮の差、潮時
  • 積荷の種類、数量、損傷状況
  • 油漏れの有無
  • 舵および推進器の状況
  • 積荷の内容、ホールド別積載量
  • 積荷の瀬取りまたは投荷の可否
  • 吃水・トリム(座礁前と座礁後)
  • 座礁前と現在の各タンクの量
  • T.P.C(Tons per Centimeter
  • 本船の周囲の水深(座礁時、高潮時、低潮時)(調査日、時間を明確にすること)
  • 海底の質(底質)、海底の凹凸の状況
  • 人命損傷の有無

3. 離礁後の対応について

  • (a)潜水調査:潜水作業員に船底、推進器、舵などを調査させ、その報告書を取付けておきます。潜水調査は地理的、気象的条件、海水の透明度によっては正確を期し難いですが、本船の状態はほぼ確認できます。
  • (b)堪航証明:NKなどの船級協会(船級のない場合は運輸局)検査員の立会検査を求め、本船の堪航性の有無を確認し、応急修理の指示があれば工事施工のうえ、堪航証明書または臨時検査報告書(運輸局の場合は臨時航行許可証)を取付けることが大切です。
  • (c)共同海損鑑定(G.A.Survey):積荷がある場合は共同海損を構成するので、会社と相談の上、共同海損検査員(G.A.Surveyor)の立会検査を受けます。
  • (d)海難報告書:船員法第19条の定めに従い到達港または最寄りの地の運輸局、市町村役場(海外であれば大使館、領事館)に海難報告書を提出し認証を受けます。
  • (e)救助作業調査報告書:救助業者によって救助された場合、救助費の決定にあたり、救助作業の内容も重要な要素となりますので、被救助者側からみてどのような作業をしたか報告書を作成しておきます。また、写真を撮れれば参考になります。