はじめに
片づいていない高齢者住宅が被災した時にどうなるか。
保健師として実際の現場を目のあたりにしてきた経験から、こんまり®︎流片づけ法を実践し、モノの手放し方を知っていることで、老いや環境の変化を受け入れる力が身につき、本人や家族の精神的負担の軽減につながると感じています。
普段から片づいている家だと、認知症の早期発見につながります。転倒予防、急な入院や施設入所、災害時の避難準備や避難もスムーズになります。高齢者の住まいは、早めに片づけることを強くオススメします。
1. 実家の片づけとは?
1-1. 実家の片づけとは?モノが多い
いつか誰かがしないといけない実家の片づけは、お金も手間もかかります。実家のモノの多さや散らかり具合に気づきながらも、日常の忙しさから、ついつい先延ばしにしていませんか?
私が保健師として働いていた頃、高齢者のご家族からの悩みとして多く聞かれたのが、「実家をどうにかしたい。」「片づけても片づけても次に来たら、元に戻っている。」「実家は散らかってるのでホテルに泊まるか日帰りをするようにしている。」というものでした。
ご自宅が片づいていることは、高齢者やそのご家族にとっても、メリットが大きいのではないかと感じました。
ただ、当時の私も含め、皆さまもまた、どうしたら本人と衝突することなく、実家を片づけることができるのかわからず、そのままにして、波風立てずに穏便に過ごすという選択を取ることが多かったと感じています。
しかしながら、いつかしようとそのままにしていると、どんどん面倒になります。ご高齢の方ほど、モノを大切にする方も多く、捨てることへの罪悪感を強く感じている方も少なくありません。
1-2. 高齢化社会の日本で、実家を片づける重要性
2022年、日本の人口のうち、65歳以上の人口は3,621万人、これは総人口の28.9%なります。また高齢者のいる世帯は全世帯の49.4%と、約半分を占めています。
2025年には高齢化比率が30%を超えるといわれており、日本は超高齢社会へと突入していきます。(出典:内閣府 令和4年版高齢社会白書)
また近年では、大型台風や大雨などの自然災害が多く、高齢者の早めの避難や日頃から防災に取り組むことが推奨されています。すぐに必要なモノを持って避難できるように、実家を片づけておくことはとても大切です。
1-3. 実家を片づけることで、超高齢社会に備える。―本人とサポート者の負担軽減―
実家を片づけておくことで、どこに何がどれだけあるかが明確となり、モノを探す手間が省けるだけでなく、被災時に準備から避難までがよりスムーズとなったり、動線にモノがないことで転倒予防につながったりもします。
また、整理された状態を維持できなくなるなどの変化をサインに、高齢者の異変にすぐに気づき、認知症などの病気の早期発見・対応することができ、いざ在宅介護を受けると決まった時も慌てずに対応することができます。
将来利用する可能性のある介護サポートに備えて、実家を片づけておくことは大切な準備のひとつです。準備しておくことで、高齢者をとりまく家族や周囲の方達の負担軽減となります。
適切な支援を受けられることで、高齢者自身の不安やストレス軽減にもつながります。
2. 実家を片づけることで親世代と子世代、それぞれが得られる効果
2-1. 高齢者の不安や寂しさを埋めるモノ
保健師時代、高齢者のお宅を訪問して感じたことは、どのお宅も思い出の品が多いためか、モノに囲まれがちになってしまうということでした。
田舎特有の大きな一軒家、子どもが巣立ったお家に2人または1人で暮らすには多すぎる部屋の数。暮らす人数は減るのに、モノの量はそのままどころか、年を重ねるごとに増えていく。
子どもは遠方に住んでおり、周りに頼れる人もいない。子どもに迷惑をかけたくない親心も働き、身体的にモノを捨てるという作業も難しくなり、どんどんと溜まっていくモノ。
私は、「モノがあるとあったかく感じる」と一人暮らしの高齢者が語った言葉が今でも忘れられません。老いることへの不安や一人暮らしの寂しさなどをモノで埋めることによって、安心感を得られるという高齢者は多かったです。
2-2. 感謝して手放せるようになると、変化にも強くなれる
私が保健師として働いていた地域(当時、高齢化率 40%超)では、年間100件ほどの相談があり、その全てにじっくりと丁寧に向き合ってきました。
その多くは、高齢者が自宅できちんと生活できているかを確かめ、サポートをしてほしいというものでした。
中でも、難しさを感じたのが、一人暮らしの認知症の方のお住まいを片付けることでした。
在宅ヘルパーに掃除や調理を頼もうと思っても、自宅にモノがあふれ足の踏み場もないため、ヘルパーが訪問できないというとき、まずはご自宅を片づけることを提案しても、モノがなくなる不安や環境の変化を受け止めきれない高齢者は多いです。そのため、ご家族、ケアマネージャー、ヘルパーと連携し、モノに変わる安心感を伝えていくことが必要でした。
「モノを感謝して手放し、今ときめくモノだけを残す」ということに踏み切れない方が、この世代には多いように感じていました。
そんなことを感じていた中、ある時、市内全域で水害による床上浸水がありました。無理に多くのモノを残そうと努力される方よりも、潔く手放された家のほうが、活気があり、心の回復も早かった印象を受けました。
もし、こんまり®︎流の片づけ法で、ご自宅の片づけを通して、今後の人生における老いや環境の変化を受け入れる力が身についていたら、災害に直面しても、乗り越えていくことがスムーズになるのではないかと感じています。
2-3. ときめいて暮らすことは究極の健康法になる!?
年令を重ねるほど、変化することが億劫に感じたり、変化に対するストレスを大きく感じてしまうことも少なくありません。
気力や体力が減っていくその前に、1日でも早く住まいの片づけを行い、ときめくモノに囲まれた生活へとシフトすることで、精神的なストレスが減り、突然の事態を乗り越えやすくなることが期待できます。
これまで多くのクライアントと接してきましたが、自分の好きなモノに囲まれ、ときめいて暮らすことは究極の健康法になると感じています。
3. 人生最後の日までときめくモノに囲まれた生活をしませんか?
3-1. まずはあなた自身がときめく人生を生きよう!
実家の片づけを始めるその前に⋯。まずは、あなたがあなたのお住まいの片づけを終え、ときめくモノに囲まれて、ときめく暮らしを実践することをオススメします。
あなたのご自宅の片づけを終えたら、実家に置いてあるあなたのモノもときめきにそって片づけましょう。
片づけは伝染します。まずは、ご両親に整った場所の心地良さを感じてもらうのが最初の一歩です。
3-2. 備蓄収納スペースをしっかり決める、区切るための3つのチェックポイント
体を動かして実家の片づけを始める前に、親御さんは、今どんな暮らしにときめいているのか、どんなモノが役立っていると感じるのか、安心するのか、便利だと思うのか。ぜひ聞いてみてください。
ご自宅にあるものは全て、親御さんの人生にご縁があり、やってきたモノ。今は使っていなくても、特別なエピソードや大切な思いが、何らかの大切な思いが隠れている可能性もあります。
一見、遠回りに思えるかもしれないですが、親御さんが何を大切にこれまで生きてきたのかを知り、尊重することで、結果、実家の片づけをスムーズに行うことができます。
3-3. 実家の片づけはプロにお任せするのが近道!
実家の片づけを行おうにも、気力や体力、時間の余裕を持てないこともあるかもしれません。そんな場合は、実家の片づけを家族でなんとかするというのは、容易ではないことも。
一度は住んだことのある実家の片づけ。なかなか捨てられない親世代の片づけのサポートに加え、自分の子世代の思い出もつまっていて、捨てることを難航させるのが実家の片づけの特徴ともいえます。
なかなか片づけが進まないことに、不安やイライラが募り、感情的に家族同士がぶつかることもあるかもしれません。
そんな時は、プロに任せることも選択肢の一つです。理想は、コンサルタントに自家の親と向き合ってもらい、家族は後方支援(労う、励ます、寄り添う)するのがベストな関係です。
片づけを始めるきっかけとして、災害に備えるという、防災を理由にすると、親御さんに納得してもらいやすくなります。
編集後記
私は実家の片づけをする際、親のもったいない精神が悩みの種だととらえていました⋯。ですが、親へ片づけレッスンを行い、ひとつひとつモノと向き合う中で、〝子どもに不自由な思いをさせたくない。なんでも挑戦させてあげたい〟という想いが「もったいない」につながっていたことに気づき、感謝の気持ちがあふれました。私の知らなかった親の人生にふれたことで、親の理想の暮らしを知り、これから共に過ごしていく時間を、よりときめかせるサポートが家族としてできると感じています。
庄司 晃子(あぴこ☀)
こんまり®流片づけコンサルタント
大分県臼杵市。海と山に囲まれた田舎で生まれ育ち、ガーデニングとまどろむ時間が大好き。2019年こんまりメソッドの片づけ法を実践後、2021年コンサルタント養成講座を受講。長年衝突して進まなかった実家の片づけが、こんまりメソッドで、スムーズに終えられたことに感動する。このメソッドに可能性を感じ、あの頃の私のように実家の片づけで悩まれている方のお役に立てたらと思い、普及・啓発活動に邁進中。