「保険会社」と「代理店」には、それぞれの役割がある。前者は、商品開発と保険金の支払いを行う。
だが、それだけではメガ損保になれない。販売を担っている後者の働きが、常に次代を築いてきたのだ。

「中期経営計画(2022-2025)」は定性および定量の目標を立てて、自社と社会のサステナビリティを同時に実現するサステナビリティ・トランスフォーメーションを成長ビジョンとして掲げるなど、近い未来に向けて目指す姿をくっきりと描き出したものだ。そのなかにエポックメイキングな表現がある。三井住友海上を「リスクソリューションプラットフォーマー」、保険代理店を「リスクソリューションプロバイダー」と新たに定義づけした。

各地の代理店と三井住友海上が「ともに進み、ともに繁栄」していくことを目的として生まれたMSA(MITSUI SUMITOMO AGENCIES、2022年4月末時点で1,126会員)は、保険代理店の集合体として業界をリードする組織力を誇る。すなわち、代理店エンゲージメントの量的・質的な充実が三井住友海上の大きな強みとなっているのだ。

リスクソリューションプロバイダーと聞いたときの腹落ち感

今回、強みの源泉となっている全国のMSA代理店を代表して、和歌山県海南市のトラストワン、栃木県栃木市の共同プロ保険事務所、鳥取県米子市のD・I・Pが集まった。顧客と真摯に向き合い続けている3社の代表取締役が「リスクソリューションプロバイダー」の意味や存在意義について想いを語り合うところから、熱のあるセッションが始まった。

田中

「リスクソリューションプラットフォーマー」と「リスクソリューションプロバイダー」という言葉が中期経営計画に記された前提には、三井住友海上と代理店に求められる「提供価値の変革」があるようですね。

伊藤

これからは「お客さまに提供する価値をグレードアップしていこう」という呼びかけだと認識しています。保険の本来の機能は、事故発生時にしっかりと「補償」をするというものです。それだけではなく、事故が発生する前の「予防」や発生した後の「リカバリー」までを含めて、幅広いリスクソリューションを提供する。そうした心配りと行動ができる代理店のことを、これからは「リスクソリューションプロバイダー」と称するようになったと。

四反田

事故・災害を未然に防ぎ、それでも発生した場合には経済的損失を補填し、いち早い回復を支援する。この広いレンジのすべてに最前線で対応していくのが三井住友海上の代理店であり、私たちが存在する意義はそこに凝縮されているということですね。

田中

ただ、「予防・補償・リカバリーを総合した価値提供力が私たちに問われている」というのは、現行の中期経営計画が発表される以前から感じていたことです。「お客さまのためにリスクソリューションのプロバイダーとして幅広く価値を提供しなければ」という考え方は、まったく違和感なく私のマインドセットに入ってくるものでした。

伊藤

そうですね。私も腹落ち感としては最高にすっきりとしています(笑)。

「よろず相談所」としての心構えと基本的な所作

現行の中期経営計画(2022-2025)では、保険会社と代理店のロール(役割)を再定義したところが、三井住友海上の社内外において、最も人口に膾炙かいしゃしているポイントだろう。

一つ前の中期経営計画(2018-2021)では、代理店が目指す姿を「お客さまに最適な補償をお薦めできる自立自走型保険代理店」と定めていた。「お客さま・地域のリスク解決策を提示できるソリューションプロバイダー」という現行の表現とは、やはり隔世の感がある。それにもかかわらず、代理店の側から「違和感がまったくない」「最高に腹落ちした」といった声が聞こえてくるのは、なぜだろうか。

その理由の一つは、やはり常日頃からのマインドセットにあるようだ。「リスクソリューションプロバイダー」としての心構えと基本的な所作は、それぞれがすでに実装済みであったのだ。

伊藤由子さん

伊藤

私は、保険代理店のことを「よろず相談所」だととらえています。保険の相談だけではなく、何か困ったことがあったときに相談できる場所であること。オールジャンルで幅広く何でも聞ける窓口ですね。お客さまが自分たちの課題を解決していく際のファーストコンタクトの相手が私たちであること。それこそが、保険販売を専業とするプロ代理店の役目かなと思っています。

四反田

そのような動きを積み重ねていれば、いわゆる「顧客の解像度」が上がっていきますよね。お客さまにとって何が悩みで、どういう状態を幸せだと感じているのか……。顧客理解が深まれば、お客さまからの揺るぎない信頼につながっていきます。私たちが「リスクソリューションプロバイダー」として機能していくための下地は、普段の取組によってすでにできていたと言えるのではないでしょうか。

伊藤

以前より、お取引のあるお客さまから「今度、新しい事業を始めようと思っているんだけど、そこではどのようなリスクが生じ、どのような防御手段をあらかじめ講じておけばいいのか、よくわからないんだよね」といった相談を受けることがありました。

田中

まさに「補償」の前段階の「予防」の取組ですね。下地どころか、すでに「リスクソリューションプロバイダー」として機能していたと言えるでしょう。

伊藤

「リスクソリューションプロバイダー」という言葉が現行の中期経営計画で出てきて、いまあらためて想うのは「縁があって出会った人とは心からのコミュニケーションをとり、信頼関係を醸成していくことが大事だ」ということです。やはり、仕事が高度化するにつれて、あらためて基礎を見直す必要性が生まれてくるんですよね。お客さまとの出会いの後、ホスピタリティ(歓待)から、トラスト(信頼)、そしてピース・オブ・マインド(安心)へとエスコートして、また新しい出会いを紹介していただくというのが理想の姿です。この「出会い、歓待、信頼、安心」のサイクルを築き、回していくことが、私たちプロ代理店の矜持であると考えています。

「コンビニ弁当」ではなく「愛情弁当」

四反田

保険は「商品」と称されますが、私たちが提供しているのは「作品」だと思っています。「商品」というのは素材です。そこに調味料を加えたり、焼き方を変えたりすることによって、お客さま好みの「作品」にしていくわけです。私たちは「コンビニ弁当」を大量生産しているのではありません。食べる人のことを想いながらお母さんお父さんがつくる「愛情弁当」のような作品を一つひとつ手づくりしているのです。自分のことをよく知ってくれ、いつも想ってくれている人がつくるからこそ、お弁当は特別なものになります。「愛情弁当」という、この世に一つだけの作品。それが、私たちがお届けしている保険だと考えています。

伊藤

私たちは、常にお客さまに「Defense is power」という話をしています。当社のタグラインにしている言葉なのですが、「防御はチカラである」ということです。片手に矛(ほこ)を持つのであれば、もう片方の手には盾が必要となります。新しいアクションだけでは会社は繁栄しません。そのアクションの裏には備えがなければいけませんね。優れた盾は、それを保有する者に勇気を与えます。すなわち、「Defense is power」です。

田中

私は「プレゼンよりもヒアリング」だと想いながら、いつも仕事をしています。お客さまの経歴や価値観、事業の経緯等をきっちりとヒアリングしたうえで、各種の特約を検討したり、あるいは補償を外したりしながら、オンリーワンを設計していくのが保険です。目配り・気配り・心配りができている人が愛情を込めてつくるからこそ、お弁当もおいしいものになるわけですよね。確かに、愛情弁当と私たちの保険は理論的にも感情論的にも構造はまったく同じものだと思います。

四反田善仁さん

四反田

いま、地球・国・自治体・個人のあらゆるレベルにおいて、解決しなければならない課題があふれ出しています。幸せに暮らしていくために解決しなければならないのはわかっているけど、方法がわからない。これが現実です。このような状況において、保険オンリーではお客さまを守りきれません。だから、単に「保険の販売業」であることから「リスクソリューションプロバイダー」へと、私たちは自分をトランスフォームしていかなくてはならないのです。いま、多様で新しいリスクとの向き合い方を支援し、お客さまの課題を解決へと導いていける専門家が地域に必要とされています。その専門家としての地域への貢献度が、私たちの存在価値に直結するのです。

地域のリスク解決策を提示できるコンサルティングワーク

お客さま、そして地域のリスク解決策を提示できる「リスクソリューションプロバイダー」としての歩みをすでに始めていた3社に、それぞれの今後を聞いた。

四反田

少子高齢化の2030年問題をはじめとして、これからの日本は社会課題の先進国となっていきます。生産年齢人口が減り、物価が上がり、食料自給率が下がるなかで、今後は輸入の肥料や農産物が買えない時代が訪れるかもしれない。そうしたなかで例えば、土地があるなら農業を始めるアドバイスをこちらからさせていただくなど、私たちは過去にはなかった新たな提案をしていきたいと考えています。これも「リスクソリューションプロバイダー」の仕事でしょう。先を見て、さまざまな知見を生かしながら提案していきます。その会社が生き抜くため、持続的に成長するためのアドバイスをしていきたいのです。これは、単に保険を売る仕事ではありません。一度、従来の保険屋さんというイメージを創造的にブレイクダウンして、社会が私たちに何を求めているのかを考えながら、行動していかないといけないのです。私たちは地域のお客さまとともに生きていますから、いま地域から求められているものが何かということを平らな気持ちで観て、考えて、そこにアタッチし続けていくことが大事なのです。

「リスクソリューションプロバイダー」という言葉は、ともすると凝り固まっていた頭を柔らかくほぐし、地域のためにもっと幅広く活動していく代理店になるための号砲だと四反田は語る。

四反田

少子高齢化に加えて、エネルギーのベストミックスをどうしていくかという問題もありますね。私たちなら、自治体と一緒になって企業を支援することもできます。自然エネルギーの開発を積極的に推し進めていくこと等により、地域社会に大きな貢献ができるのであれば、これは明るい話だと思っています。

田中雄一郎さん

田中

そうですね。地域には課題がある。いま、その課題をどのように認知していくのかが問われています。地域社会の転機や危機は、好機に変えていける。ピンチはチャンスになりうるということです。私たちの認知と行動の在り方を変えていけば、明るい未来を手繰り寄せることはできるはず。これからの保険会社と代理店は、SDGsのコンサルティングワークまでを手がけられる存在でいなければ、お客さまから選ばれなくなるでしょう。三井住友海上のチカラを借りながら、私たちは全力で取り組んでいきます。やるべきこと、成すべきことは、すでにわかっています。

伊藤

私たちの地元である鳥取県には個人、企業または団体が登録する「とっとりSDGsパートナー制度」というものがあり、中小企業もSDGsに対する意識が高く、カーボンオフセットの取組に意欲的な経営者が多い状況です。山陰MSAではCO2排出量算出クラウドサービス「zeroboard」をすべての会員が活用し、地元企業への脱炭素化の提案など、MSA会員と三井住友海上が協働して脱炭素に取り組んでいます。また、鳥取県は介護事業大国でもあります。こうしたさまざまな課題について、企業が連携して解決に取り組んでいく仕組みがいろいろと生まれてきているなか、私たちも地域でデライト(喜び)を分かち合える行動を続けていきます。

田中

何も不安がないという幸せ。それを提供できるのが私たち「リスクソリューションプロバイダー」です。それぞれの地域で、お客さまからの「ありがとう!」の山を築いていきましょう。

田中雄一郎 YUICHIRO TANAKA

トラストワン代表取締役 三井住友海上の代理店歴16年
1975年、和歌山県生まれ。信託銀行勤務、三井住友海上の研修生を経て、2006年トラストワン設立。
MSプロフェッショナルAAA認定。19年、全国MSA副会長に就任。
地元和歌山をこよなく愛し、地元の中堅中小企業開拓に日々まい進している。

四反田善仁 YOSHIHITO SHITANDA

共同プロ保険事務所代表取締役 三井住友海上の代理店歴25年
1970年、栃木県生まれ。大学卒業後、研修生として三井海上に入社。MSプロフェッショナルAAA認定。2020年より全国MSA幹事。
常に意識していることは、感動させるプロの提案。
お客さま専属の保険マネージャーという心持ちで、それぞれのライフスタイルに合わせたサポートを行う。

伊藤由子 YOSHIKO ITO

D・I・P代表取締役 三井住友海上の代理店歴23年
1972年、鳥取県生まれ。99年、個人代理店を開業(2001年ディ・アイ・ピー設立)。MSプロフェッショナルAA認定。
17~19年に全国MSA幹事。企業防衛や地域社会の課題解決に注力している。
「出会い・信頼・安心の輪」を広げることで、地域の豊かな未来生活の創造を見据える。

text by Kiyoto Kuniryo | photographs by Shuji Goto | edit by Yasumasa Akashi
國領磨人 = 文 後藤秀二 = 写真 明石康正 = 編集