交通情報で「東京のいま」を伝える。J-WAVEが大事にする、ドライバーに寄り添うラジオ放送とは?

ドライブのBGMはラジオ、という方は、カーオーディオが進化したいまも多いでしょう。なぜ、ハンドルを握るとついついラジオをONにしてしまうのか?ドライバーとラジオがいかに関係を深めてきたのか、J-WAVE(81.3FM)の塩田真人さんと考えてみました!

J-WAVEインタビューメインカット

運転中、音だけで情報を伝えてくれるラジオ。カーオーディオが進化したいまも、車中のBGMはラジオ、という方も多いでしょう。そのため、ラジオ局側も交通情報をはじめ、運転中に必要な情報を積極的に発信したり、ドライブで聴きたい番組や楽曲をオンエアしたりと、ドライバーを意識した番組づくりを行っています。

そんなドライバーとラジオの親密な関係はいつごろから生まれ、どのように育まれたのでしょうか?また、運転中でも快適に番組や音楽を楽しめるように、どんなことを意識しているのでしょうか?J-WAVEコンテンツプロデュース局コンテンツプロデュース部長の塩田真人さんに「ラジオとドライバーの素敵な関係づくり」について伺いました。

【お話を聞いた人】

塩田真人さん

塩田真人(しおだ・まさと)さん:1991年株式会社エフエムジャパン(現 株式会社J-WAVE)入社。営業局、制作局、デジタル戦略局を経て2023年2月より現職。編成制作部門の統括を担当。J-WAVEが東京の未来を担う子どもたちと、子どもをサポートする大人世代を応援する「J-WAVEこどもみらいプロジェクト」のプロジェクトリーダーも担う。

運転中でも心地よく聴ける「音色」をつくる

ーー私自身、車を運転する際は、自然とJ-WAVEを選局しています。特に首都圏では、ドライブ中のBGMといえばJ-WAVEというイメージを持つ方が多いように思いますが、こうしたイメージはいつごろ確立されたのでしょうか?

塩田真人さん(以下、塩田):J-WAVEは1988年の放送開始から、音楽を大切にしてきたラジオ局です。当時はここまで徹底的に音楽をメインに据えたラジオ局が他になかったため、ドライブ中のBGM代わりにお選びいただく方が多かったのではないかと思います。

ーー1980〜90年代初頭のカーオーディオは、まだカセットテープが主流でした。ドライブのBGM用に好きな音楽を集めた自作のカセットをつくる人も多かったですが、J-WAVEに合わせておけば自動的におしゃれな最先端の音楽が流れてくるわけですから、それこそ、ドライブデートで重宝した人もたくさんいそうです。

塩田:J-WAVEの開局当時は、どこか「車=ステータス」という価値観があって、意中の相手をデートに誘うには車がないといけない、そこにはおしゃれな音楽がなきゃいけない、みたいな感覚があり、ドライバーの方とJ-WAVEの関係が築かれたのではないかと思います。それから時代は変わりましたが、J-WAVEとしては昔も今も、ドライバーのみなさんを重要なリスナーと捉えている点は変わりません。

カーオーディオとカセットテープ
当時の車内BGMといえばカセットテープが中心。渾身の選曲による自作ミックステープを「ここ一番」のドライブに投入していた方も多いのでは。J-WAVEにチューニングすれば、労せず最新のおしゃれなヒット曲にありつけたのが、当時の若いリスナーを惹きつけた秘訣か

ーードライブ中の環境でも心地よく音楽を楽しんでもらうために、工夫していることはありますか?

塩田:J-WAVEは開局からずっと「音づくり」にこだわってきました。それまでのFMラジオは、原音をいかに忠実に再現するかを重視してきたのですが、J-WAVEではそれに加え、ノイズがあるような環境下でも気持ちよく聴いてもらえるような音づくりをしているんです。運転中の車内というのは走行音もそうですし、周囲の車や街の雑踏など、まさにさまざまなノイズがある環境です。そういった環境でも気持ちよく音楽が聴こえて楽しめるというのは、ドライバーの方に評価いただいているポイントなのではないかと思います。

ーーノイズがある環境下でも聴こえやすい音にするために、具体的にどんなことをしているのでしょうか?

塩田:要は、もとの音源にちょっとした味付けをするということですね。この味付けは各ラジオ局の「秘伝のタレ」のようなもので、どのような調節をしているか、詳しく明かすことはできません。ちなみに、今はラジオ局による違いはそこまで大きくないのですが、かつては同じ曲でもJ-WAVEから流れている音はすぐに判別できるくらい、調節の仕方に特徴がありました。

ーー確かに、J-WAVEで聴くと、なんとなく「音がいい」気がしていたのですが、勘違いではなかったんですね。

塩田:そうですね。ただ、なんでもかんでもJ-WAVEっぽく味付けをすればいいかというと、そういうわけでもありません。例えば、ガンガンの音圧で聴きたいヒップホップの場合、J-WAVE流に聴きやすく調整すると逆に物足りなさを感じてしまうリスナーも多いんです。この調整は、本当に難しいところですね。

「J-POP」という言葉はJ-WAVEから生まれた

ーー開局当時のJ-WAVEは洋楽中心の選曲だったそうですね。私も車の中で、見知らぬ海外の曲をずいぶんと教えてもらった記憶があります。

塩田:「洋楽中心」というよりも、ほぼ洋楽しかかけていませんでした。ただ、邦楽は流さないと決めていたわけではなくて、開局当時は洋楽とうまく混ざり合う邦楽が少なかったというのがその理由だったそうです。また、当時は「Non Stop Power Play」という、パリやニューヨーク、ジャマイカなどのFM局に選曲してもらった音楽をひたすら流す時間帯がありました。逆に、海外の局からも「J-WAVEからも東京らしい選曲をしてよ」と求められることがあったのですが、そこで選ぶのも結局は洋楽になってしまうという。

J-WAVE塩田さんインタビューカット1

ーーそれだけ、洋楽に親しんだ耳になじむ邦楽がなかった?

塩田:もちろん、まったくなかったわけではありません。J-WAVEが開局する前の1970年代から今で言う「シティ・ポップ」と呼ばれる、洗練されたメロディや歌詞の楽曲を生み出すアーティストも登場していましたから。ただ、そういった楽曲は邦楽全体で見るとやはり数は少なく、メインストリームではなかったんですね。

ーー国内の音楽ファンたちからしたら、ちょっと残念な状況ですね。


塩田:そうなんです。だからこそ、邦楽をもっと盛り上げるべく、J-WAVEから国内のレコード会社に声をかけ、「洋楽に負けない邦楽をつくっていきましょう!」という働きかけをしたんです。和製○○ではなく、これからは「J-POP」というジャンルを確立していきましょうと。

ーーということは「J-POP」って、J-WAVEから生まれた言葉だったんですか?

塩田:そうですね。当時のJ-WAVE全体のスローガンのようなものとして、「J-WAVEでかけられる国産音楽」=「J-POP」と呼ぶようになったのがはじまりでした。そこから、次第に言葉が一人歩きし始めて、雑誌などでも「J-POP」というジャンルが特集されるようになったんです。時には「J-POPなんて洋楽のコピーだ」と揶揄されることもありましたが、いつしか音楽のジャンルの一つとして認識されるくらい、大きなものになっていきました。

ーーJ-WAVE全番組でのオンエア回数などを集計してランキング化した「TOKIO HOT 100」の歴代年間チャートを振り返ると、1988年の開局時は43位の久保田利伸さん、76位の米米クラブ、81位の松任谷由実さんなど、100位以内に5人しか国内のアーティストはいません。でも、1990年代後半から少しずつ邦楽の割合が増え始めて、2023年の最新チャートではむしろ国内アーティスト勢が上位を占めるようになっていますよね。

1988年の年間チャートは米英のアーティストによる楽曲が中心。一方で2023年になると、チャート上位は日本のアーティストによる楽曲が大半を占める。K-POPアーティストのランクインも目立つなど、変化は非常に大きい。
J-WAVE「TOKIO HOT 100 CHART」公式サイトの情報をもとに、編集部作図

塩田:J-WAVEが方針を転換して邦楽をたくさんかけるようになったのではなく、日本の音楽の進化が自然とチャートに現れてきたのだと思います。つまり、本当の意味でのJ-POPがどんどん増えてきたということではないでしょうか。

生放送の即時性を生かし、聴く人の気持ちに寄り添う

ーー番組内で流す曲は誰が決めているのでしょうか?

塩田:基本的には、各番組の担当ディレクターが決めています。もちろん、J-WAVE全体として、その時々の推薦楽曲や推していきたいアーティストはあるのですが、最終的にそれを選ぶ・選ばないはディレクターの判断ですね。

ーー多くのラジオ局では特定の曲を繰り返し流す、いわゆる「パワープレイ」を導入していますよね。

塩田:もちろんJ-WAVEにもありますが、「1日に必ず5回かける」とか「月に50回かける」といったルールは定めていません。また、推薦楽曲とは別に、注目すべきネクストカマーの新譜などもあって、そうした楽曲をバランスよくオンエアすることも意識しています。例えば、誰もが知っている大ヒット曲のあとに、あえて刺激的な新人の曲をオンエアしたり。J-WAVEとしてプッシュしたい曲をより多くの人に届けるために、各ディレクターが選曲や流す順番を考えています。

また、もう一つ大事な視点は、その時々のリスナーの状況をふまえて「気持ちに寄り添う選曲」をすることです。これは、生放送の番組が多いJ-WAVEならではのスタイルといえるかもしれません。

ーー気持ちに寄り添う選曲とは?

塩田:例えば平日朝の時間帯は、1日のスタートに向けてスイッチを入れてもらえるよう、気持ちをテンポアップできるような音楽を選ぶことがあります。ただ、そうした曲ばかり続くと疲れてしまうので、リラックスしたい時間帯や深夜帯には、自然とスローな選曲になったりもします。

特に、J-WAVEの場合は移動中の車内や仕事中のオフィスで、常に流し続けていただいているケースも多いんです。ですから、時間帯や状況によって変化するリスナーの皆さまの気持ちに寄り添って、音楽の選曲はもちろん、発信する情報、話すスピード、言葉選びなどを変えることが大事だと考えています。

J-WAVE塩田さんインタビューカット2

ーー確かに、深夜に早口でまくし立てるような話し方だと、リラックスして聞けないかもしれませんね。

塩田:そこもプロデューサーやディレクターがコントロールしなければいけません。特に、まだラジオに慣れていない新人ナビゲーター(J-WAVEでは番組の話し手を「ナビゲーター」と表現する)の場合、ご本人が思っている以上に早口になっていたり、機嫌が悪いように聴こえてしまったり、必要以上に丁寧な言い回しになっていたりすることもあります。そういう場合はディレクターが指摘をして、その場で調整していくことが多いですね。

ーーなるほど。発信する「情報」については、時間帯ごとにどう変えているんですか?

塩田:まず、朝の時間帯はその日に押さえておきたい情報をコンパクトにまとめて発信します。ドライバーの方向けの交通情報も、朝夕の時間帯は高頻度でお伝えしています。日中は、オフィスのなかで仕事をしながらお聴きいただいている方を意識して、東京でなにかを生み出す手助けになるような情報が多くなりますし、夕方以降はまだ仕事中の方や、出先からオフィスに車で帰る方にリラックスしてもらいたいということで、クスッと笑えるような番組内容になっています。

また、最近ではSNS上のトレンドをリアルタイムで拾い、番組に反映させることもあります。例えば、ブルーノ・マーズが来日したことでSNSが盛り上がっていれば、番組冒頭から彼の曲をかけますし、偉大なアーティストの訃報が入ってきた際には、トリュビュートの思いを込めてその方の代表曲をかけることもある。そこは生放送中心かつ、音楽にこだわりを持つラジオ局の特徴がよく現れている部分だと思います。

交通情報を届けると同時に「東京のいま」を感じてもらう

ーー交通情報のお話が出ましたが、J-WAVEでは約1分間の交通情報「Traffic Information」をかなりの頻度で放送しています。今はスマホやカーナビでも情報を取得できますが、それでも交通情報を頻繁に発信し続けている理由があれば教えてください。

塩田:いくつかの理由があります。まず、J-WAVEでは日本道路交通情報センター(JARTIC)から最新の道路状況などをリアルタイムでご提供いただいているのですが、この情報が非常に手厚く、スマホやカーナビでは拾いきれないところまでカバーされています。例えば、首都高速道路や一般道路に設置されたカメラからの情報や、各高速道路と連携した詳細な情報も入ってくる。そのなかから、よりドライバーに適した情報を精査し、的確にお届けできるのが「Traffic Information」の強みです。

それから、「Traffic Information」には単に情報を伝えるだけではなく、「東京のいま」を感じていただくという役割もあるのではないかと思います。

ーー交通情報で「東京のいま」がわかるんですか?

塩田:はい。例えば渋滞予測一つとっても、「今日はあの場所でお祭りがあるため、混雑が予想されます」や、「マラソン大会に伴う交通規制があります」といった具合に、東京で行われている催事について知ることができます。また、大雪や大雨による運転への影響、火災による混雑状況の変化などは、刻一刻と変わる街の動きを俯瞰で見られるような情報でもあると思うんです。そうした、「いまの東京の動き」に思いを巡らせられるような情報って、意外と少ないのではないでしょうか。

「Traffic Information」の“あの曲”はジャズピアニスト小曽根 真さんによる『Carnaval Pra Manha』

「Traffic Information」のBGMに使用されている楽曲は、ジャズピアニスト小曽根 真さんによるラテンのリズムが軽快な『Carnaval Pra Manha』。冒頭のピアノの音を聞くだけで、「あ、交通情報だ」と思う方も多いはず。こちらの楽曲、小曽根さんが「Traffic Information」のために書き下ろした楽曲で、塩田さんは「当時、J-WAVEでレギュラー番組を担当してくださっていた小曽根さんに作曲をお願いしました。小曽根さんはJ-WAVEのリスナーでもあったので、局のイメージにぴったりな曲に仕上げてくださいました」と言います。

なお、気象情報を届ける「Weather Information」のBGMも小曽根さんによる楽曲『Walking Together』が使用されています。「実は、ニュース番組の『Headline News』のBGMも小曽根さんに依頼したかったのですが、小曽根さんは『いま以上にふさわしい楽曲はない』と感じていたようで、既存のBGMを現在も使い続けています」と塩田さん。

情報インフラとしてのラジオが、「気持ちに寄り添う放送」であるために

ーー交通情報だけでなく、ラジオはドライバーにとっての情報インフラとしての機能を期待されています。災害情報の発信なども重要な役割だと思いますが、災害情報はどのように運用されているのでしょうか。

塩田:地震に関してお伝えすると、震度5強以上の地震発生が予測される緊急地震速報が発令されると、自動的に地震速報に放送内容が切り替わります。リスナーの方に向け「身の安全を第一に行動してください。周りの状況を確認してください」といった情報を発信します。「ハンドルをしっかり握ってハザードランプをつけて、ゆっくりスピードを落としてください」といったドライバーの方に向けた情報も合わせて伝えます。

ーー2011年の東日本大震災発生時は、どのような放送を行っていたのでしょうか。

塩田:東日本大震災では、J-WAVEの放送エリアでもかなり大きな被害があり、特別編成の番組で、被害情報の速報や、ライフラインの状況などを発信しました。J-WAVEは報道セクションを有するような大きな放送局ではありませんが、そんな局にできることはなんだ、と考え、少しでも聞いている方の心が休まるよう、心をサポートするような放送に努めてきました。

ーーテレビやインターネットで、ショッキングな災害の映像や情報を見続けると、心が疲れてしまいますからね。

塩田:そう思います。普段から耳にしているナビゲーターの声や、「あの番組から流れる音楽」をいつものように聞けて安心感を覚えたというリスナーの方の声をいただきました。

ーーそれも、J-WAVEの大きな特徴である「気持ちに寄り添う放送」に通じる部分があると感じます。

J-WAVE塩田さんインタビューカット3

塩田:そうですね。J-WAVEの番組は主に東京のスタジオから、関東一円に向けて放送しています。つまり、話し手も聞き手の方と同じ空気を吸い、同じように蒸し暑さや肌寒さ、あるいは天候の変化などをリアルタイムで感じています。だからこそ、雨が降ってくればドライバーの方に注意を促す言葉をかけ、雨上がりに虹がかかれば、その状況にフィットする曲を流すことができるわけです。

今はスマホのラジオアプリでタイムフリーもあり、時間や場所に関係なく番組を聴くことができるようになっています。また、SNSが発達したことで、ラジオならではの即時性という強みは失われつつあるのかもしれません。それでも、J-WAVEが大切にしてきた軸は変えずに、これからもリスナーの方々の気持ちに寄り添うラジオ局でありたいと思っています。

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取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影・編集:はてな編集部