交通事故の8割はヒューマンエラーが原因。最新の交通事故統計・分析から読み解く、重大事故を回避するポイントとは?

交通事故は、いつ、どんな状況で、どんな要因で発生しているのでしょうか。国内の交通事故の情報を集約し、統計化、分析を担う交通事故総合分析センター(ITARDA)の田久保宣晃さんに、最新のデータをもとに「なぜ事故が起きるのか」を解説していただきました。

交通事故統計・分析メインカット

令和4年の一年間で起こった「全事故」、つまり軽傷・重傷・死亡のすべてを含む交通事故の発生件数は300,839件。そのうち死亡事故は2,550件です(警察庁調べ)。これらは、どんな状況で発生しているのでしょうか。また、特に重大な事故につながりやすいのはどのようなシチュエーションなのでしょうか。

交通事故・死亡事故のデータを読み解くことで、重大な事故を回避する上で注意すべきポイントが見えてくるかもしれません。国内で発生した交通事故の情報を蓄積し、総合的な調査分析を行う「交通事故総合分析センター」の田久保宣晃さんに、さまざまな分析データを紹介してもらいつつ、見解を伺いました。そこには、ハンドルを握る人が、事故を起こさず、安全に車を運転するための、さまざまな示唆がありました。

【お話を聞いた人】

田久保宣晃さん

田久保宣晃(たくぼ・のぶあき)さん:工学博士。交通事故総合分析センター 研究部次長兼研究第一課長。警察庁の科学警察研究所の交通部門で35年以上にわたり交通事故の分析・事故解析の研究に従事。警察庁退官後、2023年から現職。

カーブで死亡事故が発生しやすい理由は?

<安全運転のために注意すべき「道路形状」のポイント>

・事故が最も多く発生しているのは「交差点」
・スピードを出しやすい「単路」では、死亡事故の割合が増加
・「カーブ」での事故は致死率が高い

ーーはじめに田久保さんにお聞きしたいのは、「“道路形状別”の交通事故発生状況」。つまり、どのような道路環境で事故が起きやすいかです。単路(交差点以外の道路)や交差点、トンネル、さらには交差点の信号機の有無で、事故の発生率や死亡事故の確率はどのくらい変わってくるのでしょうか?

田久保宣晃さん(以下、田久保):では、まず、以下のグラフをご覧ください。

道路形状別交通事故発生状況【令和4年(2022年)中】

このグラフは、令和4年に発生した全事故、また死亡事故を「事故が起きた道路形状」別に整理したものです。
全事故(左の円グラフ)の内訳ですが、最も多いのが「交差点(グラフ内側グレー部分)」で42.8%。「交差点付近」の13.9%と合わせると、事故の6割近くが交差点もしくは交差点付近で起きています。

道路形状別交通事故発生状況【令和4年(2022年)中】部分抽出

そもそも、世の中には交差点以外の道路の方が圧倒的に多いわけですが、それにもかかわらず6割近くの事故が交差点に関連して起きています。交差点が、いかに事故の起こりやすい場所であるかおわかりいただけると思います。

ーー「死亡事故」の内訳(右の円グラフ)を見ると、「単路」の割合が47.8%と一気に増加しています。つまり、交差点より事故の発生件数自体は少ない単路の方が、「より重大な事故」につながりやすいことがわかります。その理由はなんでしょうか?

道路形状別交通事故発生状況【令和4年(2022年)中】単路抽出

田久保:事故というのは複合的な要因で発生しますので、一概に「こうだ」と決めつけることはできません。ただ、私の経験上、一般単路はスピードを出しやすい傾向があり、また、主要な幹線道路の場合は交通量も増加します。そのため、事故が起こった場合に死亡などの重大な結果を招きやすいのではないかと考えます。

ーー単路のなかでも死亡事故の割合が「カーブ」の場合、一気に増加しています。事故全体のなかの割合はわずか2.6%ですが、死亡事故に対する割合は13.6%に跳ね上がっているようです。

道路形状別交通事故発生状況【令和4年(2022年)中】カーブ抽出

田久保:交通事故による死者数を全死傷者で割った致死率は0.85です。これをカーブに限定すると4.39、つまり、全体平均の5倍にまで跳ね上がります。要因はいくつか考えられますが、最も大きいのはカーブ特有の「見通しの悪さ」が影響していると考えられます。運転行動の3要素である“認知・判断・操作”の点でも、カーブは認知ミスが起きやすいと言われています。また、カーブは車両のコントロールが効きづらい状況で、スリップしやすいことも重大な事故が起こる要因ではないでしょうか。

車同士の事故よりも危険? 道路上の固定物が凶器になる

<安全運転のために注意すべき「事故類型」のポイント>

・「車同士の事故」は全体の8割以上を占める
・特に、「出会頭」や「正面衝突」は死亡事故につながりやすい
・「人と車」の死亡事故はドライバーが加害者になるケースがほとんど
・事故の際、道路上の固定物への衝突は重大なリスクになり得る

ーー続いてお聞きしたいのは、車両同士、人対車両、など、「どんな」事故が多いかです。

田久保:それならば、「事故類型」のデータを見ていただくといいでしょう。以下のグラフは交通事故を「車両相互」「人対車両」「車両単独」で大別し、さらに「出会頭の衝突」や「追突」といった事故の状況別に分類したものです。

事故類型別交通事故発生状況【令和4年(2022年)中】

田久保:事故全体で見ると、圧倒的に多いのが「車両相互(車同士による接触)」で、じつに83.6%を占めています。「車両相互」の事故のなかでも、特に多いのは「出会頭」(25.3%)と「追突」(30.5%)ですね。このうち、より重い事態を招きやすいのは「出会頭」の方で、死亡事故の内訳では、「出会頭」の割合が11%と最も多いです。また、「正面衝突」も件数そのものは少ないですが、死亡の割合は8.4%と高く、こちらも非常に危険な事故であることがうかがえます。

事故類型別交通事故発生状況【令和4年(2022年)中】クローズアップ

田久保:出会頭の事故は車両がまともにドライバーにぶつかることもありますし、正面衝突は車と車の相対速度が速くなる傾向がある。そのため、どうしても死亡する確率が上がってしまいます。逆に、「追突」は事故の件数は30.5%と最も多いのですが、死亡事故の割合で見ると5.6%。事故件数の割に死亡が少ないのは、AEB(衝突被害軽減ブレーキ)などの安全装置が、追突事故に対して特に効果を発揮しやすいからだと考えられます。次に、「人対車両」に注目してみます。

事故類型別交通事故発生状況【令和4年(2022年)中】人対車両抽出

全事故に対する割合は12.3%ですが、死亡事故に限ると35.2%まで上昇しています。一般的にイメージされるとおり、非常に致死率が高いです。当然、亡くなってしまうのは車に防御されていない歩行者の方です。

田久保宣晃さんがお話している様子

ーーやはりドライバーが加害者になってしまうケースがほとんどなのですね。他に気になるのは「車両単独(樹木など固定物への衝突、路外への逸脱など)」の事故です。「車両相互」、「人対車両」に比べて事故の件数そのものは少ないですが、死亡事故に限ると、全体の28%が「車両単独」です。

事故類型別交通事故発生状況【令和4年(2022年)中】クローズアップ2

田久保:車両単独事故の被害が大きくなりやすい理由は、主に2つ考えられます。1つ目は速度が高くなる傾向があるから。2つ目は、車両同士よりも柱状の工作物などにぶつかった場合の方が、衝撃が一点に集中しやすいからです。例えば、過去に実施した実験では、時速80kmで支柱のような固定物に車が側面から衝突した場合、当たった場所に大きな力がピンポイントで加わり、車体が「くの字」に曲がってしまいました。

ーー確かに車両単独事故の内訳で最も死に至りやすいのは、そういったケースが含まれる「工作物衝突」で、死亡事故全体の15.8%にあたります。運転中、周囲の人や車に注意を向けるドライバーは多いと思いますが、この結果を見る限り、道路上にたくさんある固定物も重大な「リスク」であることを改めて認識する必要がありそうです。

事故類型別交通事故発生状況【令和4年(2022年)中】工作物衝突抽出

場所ごとに「起こりやすい事故のタイプ」を意識しておく

ーー「道路形状」と「事故類型」の統計から、「危険な事故」の大きな傾向はつかめてきました。ここからは、より具体的に「どの場所で、どんな事故が起こりやすいか」について伺いたいです。

田久保:道路形状と事故類型を組み合わせたグラフが参照材料になるでしょう。「交差点で起こりやすい事故」「カーブで起こりやすい事故」など、場所ごとにどんな事故が特に多発しているかがわかるデータです。

事故類型・道路形状(線形)構成率【令和4年(2022年)中】

ーーこれを見ると、道路環境によって注意するべきポイントはまるで異なることに気付かされます。

田久保:例えば、「交差点付近」で最も多い事故は「車両相互の追突事故」で、67.2%を占めています。ただ、同じ交差点でも信号の有無によって割合は大きく変化します。「信号のない交差点」では「車両相互・出会頭」が65.3%と最多になります。一方で「信号ありの交差点」では、さまざまな事故がまんべんなく発生しています。また、「カーブ」も特徴的で、「正面衝突」の割合が27.8%と、他の場所に比べて突出しています。カーブでは車線からのはみ出しが多くなるため、車両同士が接触するリスクが高まるためだと考えられます。

ーーこうしたデータを頭に入れ、その時々に起こりやすい事故のタイプを意識することで、適切な状況判断ができ、事故防止につなげることができそうです。

交通事故の半数は「安全不確認」が原因

<安全運転のために注意すべき「人的要因」のポイント>

・交通事故発生要因の8割は「ヒューマンエラー」
・そのなかでも「発見の遅れ」が突出して多い
・基本的な安全確認さえできていれば防げた事故も

ーーこれら交通事故はどんな「要因」で起こっているのでしょうか?

田久保:交通事故の発生要因は大きく分けて「道路の要因」「車の要因」「人的要因」の3つです。なかでも圧倒的に多いのが「人的要因」。つまり、ドライバー自身のヒューマンエラーによる事故で、事故全体の8割にも上ります。ヒューマンエラーは主に「発見の遅れ」「判断の誤り」「操作の誤り」に大別されますが、以下のグラフは、「人的要因」のなかで、どのエラーがどの程度発生しているかを整理したものです。

全事故の第一当事者(車)の人的要因【令和4年(2022年)中】

ーー「発見の遅れ」(77.5%)が突出していますね。なかでも、特に多いのが『安全不確認』、安全行動をとっていなかったがためにリスクを発見できなかったケースで、全事故のおよそ半分(49.7%)を占めています。次いで、脇見などをしていて発見が遅れる「外在的前方不注意」が16.2%、居眠りやぼーっとしていたなどドライバーの内面が原因で発見が遅れる「内在的前方不注意」が11.7%となっています。

田久保:このデータからわかるのは、安全確認という当たり前の注意行動さえとっていればリスクを発見できたはずなのに、それを怠ったために多くの事故が発生しているということです。つまり、ドライバーの心がけや行動次第で事故は未然に防げるということです。

ーー安全確認をしていれば早めにリスクを発見でき、判断や操作の誤り自体を防止できたケースもありそうです。結局のところヒューマンエラーを引き起こす最大の要因は、ドライバーの油断や慢心といえるかもしれません。ハンドルを握る際は、安全確認の重要性を改めて認識しなければいけませんね。

いざというとき命を守る安全装置。ただし、過信は禁物

<安全運転のために注意すべき「車の装備」に関するポイント>

・シートベルトは必ず着用。後席に乗る人の着用も徹底する
・運転支援システムを過信しない

ーー最後に、車の装備、特に安全装置の意味合いを学べるデータに関してお伺いします。シートベルトやチャイルドシートだけでなく、最近ではAEB(Autonomous Emergency Braking:衝突被害軽減ブレーキ。車両前方に備わったレーダーやカメラで前方の車両、歩行者などを検知し、一定の距離まで近づくと警報や自動ブレーキが作動する装置)や高機能前照灯(レーダーやカメラで前方の車両、歩行者などを検知し、ハイ / ロービームを切り替えるなど、適切な照射範囲に調整する装置)など、さまざまな運転支援システムが車に備わっています。

田久保:基本ではありますが、シートベルトの効果は大きいです。以下のグラフをご覧ください。

乗車位置・シートベルト等着用状況・ 致死率(死者数÷死傷者数)【令和4年(2022年)中】

交通事故の全死傷者のなかで、シートベルトを着用していたドライバー(上図版で乗車位置が「運転中」)の致死率が0.2%なのに対し、ベルト非着用の致死率は9.7%にまで上昇します。シートベルトをするかしないかで、致死率は40倍も変わってくるのです。

また、このデータには含まれていませんが、シートベルトを着用していたことにより、そもそもケガをしなかったという人も多いはずで、実際にはグラフに表れる数字以上に大きな差があるのではないかと考えられます。さらに、後席もシートベルト着用の有無によって致死率が3倍以上変わってきます。全座席、シートベルトの着用は義務ですが、改めて車に乗る人全員が必ずシートベルトを着用するという意識を持つべきでしょう。

運転支援システムに関しては、まず、AEBの有無による追突死傷事故の発生件数を比較したデータでは、AEBを搭載している場合、普通乗用車で51.3%減、小型乗用車で62.1%減、軽乗用車で47.3%減と低減しています。また、高機能前照灯を標準装備している場合、装備なしに比べて夜間の事故が約40%減ったというデータがあります。

ーーやはり、その効果は大きいのですね。

田久保:ただし、決して過信はしないでください。これらの装置は安全性を高めることはできても、100%事故を防いでくれるものではありません。最新の安全装置がついているからと楽観視していると、かえってリスクになってしまいます。

ドライバーの心がけ次第で、交通事故は減らせる

交通事故の死者数は1970年の16,765人をピークに年々減り続け、2022年は2,550人。50年間で6分の1以下になりました。

交通安全対策の強化や車の高性能化など、さまざまな理由が考えられますが、ニュースなどで見聞きする凄惨な事故を教訓に、ドライバーの意識が変化していることも影響しているかもしれません。

田久保宣晃さんが解説している様子

田久保さんも「ここ数十年の変化として、特に高い速度での事故が減少している傾向があります。今も一部のあおり運転などがセンセーショナルに報道されることはありますが、全体的には無茶な運転をする人は減ってきているのではないでしょうか」と語るように、ひと昔前と比べればドライバーのマナーは向上しているのかもしれません。

しかしそれでも、交通事故の多くは「車」ではなく「人間」が要因となって発生します。ハンドルを握る方は、高い安全意識こそ、自分とみんなの命を守る最大の鍵であることを、どうかお忘れなく。

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取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影・編集:はてな編集部