ハイテク運転シミュレーターはこんなにスゴい!筋金入りのペーパードライバーが救いを求めて乗ってみた

ペーパードライバーを克服するには、ハンドルを握るしかない。けど、もはや車に乗ることすら怖い。そんな方にうってつけのハイテク運転シミュレーターを、「筋金入りのペーパードライバー」が体験します。AIによって「なにが起きるか分からない」公道の様子を再現した「SAFETY DRIVING TRAINER」なら、車に乗るのが怖くなくなるかも!?

ハイテク運転シミュレーターはこんなにスゴい!筋金入りのペーパードライバーが救いを求めて乗ってみた

はじめまして。ライターの井口エリです。
「くるまも」に登場しておきながら大変恐縮なのですが、わたし筋金入りのペーパードライバー(歴15年)です。学生時代にAT(オートマ)限定で取得するも、実家の車はMT(マニュアル)……。

途中、原付スクーターこそ乗っていましたが、車を運転する機会が一度も訪れないまま、15年の月日が流れ、立派なペーパードライバー完成と相成ったのです。だって、都市部だと公共交通機関網が発達しているから、運転できなくても困らなかったんだもん。もちろん、いま手元にある免許はピカピカのゴールド。

筆者が免許取得した頃。なお、教習所入所当初はMT免許を取るつもりでしたが、クラッチとシフトの操作に馴染めずATへと変更したのです……

ただ、ライターという仕事柄、遠方での取材も多く「運転できたら便利だよなー」という思いをここ数年くすぶらせているのです。だがしかし、かつて車を運転し、心の奥底に染みついた「街中での運転、情報が多すぎて怖い!そもそも的確な状況判断ってやつが難しすぎる!」という私の苦手意識は払拭できるのでしょうか。

こんな自分でも、救われますか……?

そんな時に知ったのが、愛知県のアイロック社が提供する、こちらの「SAFETY DRIVING TRAINER」です。

ハイテク運転シミュレーターはこんなにスゴい!筋金入りのペーパードライバーが救いを求めて乗ってみた

運転シミュレーターは教習所でお馴染みですが、この「SAFETY DRIVING TRAINER」はさまざまなハイテクを採り入れた「なにやらすごい代物」らしい……。

「この機械さえあれば、ペーパードライバー歴に終止符が打てるのでは!?」と意気込み、愛知県アイロックさんを訪問してみました。

車や通行人をAIが制御!ハイテク運転シミュレーターのここがスゴい

迎えてくださったのは、アイロックの古賀琢麻さんです。

ハイテク運転シミュレーターはこんなにスゴい!筋金入りのペーパードライバーが救いを求めて乗ってみた

古賀さんはアイロックの取締役であり、数々のドライブシミュレーターの開発を手がけています。そしてなんと、現役のプロレーシングドライバーでもあるのです!

そんなすごい方に自分のペーパードライバーぶりが知られてしまうのか……。

井口 まず、「SAFETY DRIVING TRAINER」とはどんなシミュレーターなのか教えてください。

古賀 従来のシミュレーターと一番違うところは、「ドライバーの方が“現実で”運転した際、事故を起こさない」というコンセプトにあります。

3つのモニターで、実際の運転視界を再現しています。ハンドルやシートは実車と同じものを使っており、シートベルト装着やシートポジション調整といった動作も実車同様です

井口 公道を運転した際に事故を起こさないよう、トレーニングできると。

古賀 そうです。従来の運転シミュレーターは、「運転する車がこのラインを越えたら通行人が飛び出してくる」といったように、歩行者や対向車などの動きがあらかじめ決まっています。いわば、遊園地のお化け屋敷のようなものですね。

一方で、「SAFETY DRIVING TRAINER」は、NPC(Non Player Character:シミュレーター運転者が操作しないキャラクター)、つまり歩行者や対向車などにAIを持たせています。ですから、シチュエーションによっては相手が待ってくれたり、逆に無理やり進んできたりと、画一的ではない動きをします。

井口 AIによって実際に公道を運転しているときに近い、リアルなシチュエーションが再現されているんですね。

古賀 そのとおりです。私たちが自動車を運転しているとき、同じ歩行者でもシニアの方と子どもでは、ドライバーが気にかけるポイントは変わってきますよね。子どもだったら予想外な動きをするかもしれないし、シニアの方ならば、歩くスピードが遅いかもしれない。公道を走るシチュエーションは画一的ではなく、ドライバーは常に臨機応変に安全に配慮しなければなりません。

僕たちの提供するシミュレーターは、AIがランダムな動きをつくり出すことで、車の操作だけでなく、「臨機応変な安全運転」が学べるんです。

乗用車だけでなく、トラックなど大きな車の運転もシミュレートできます。そして、「交通量の多い交差点での右折」「死角の多い道での歩行者の飛び出し」など、30パターン以上の事故頻出シチュエーションをトレーニングできます。天候、昼 / 薄暮 / 夜などの時間設定も可能なので、運転苦手な私でも十分に経験を積めそう!

井口 私が苦手意識を持っているのはまさにそこなんです!状況に応じた的確な判断ができず、それでいて判断を誤ると事故につながる可能性があるなんて、怖すぎる……!

古賀 長く運転していないと、知識や運転の基本はどうしても忘れていってしまいます。シミュレーターはリアルな操作感と事故を起こしやすいシチュエーションを体験し、公道を走る際に事故を起こさない安全運転を学ぶツールです。今日はしっかりシミュレーションして、知識や運転の基本を思い出していきましょう。

もうひとつ、「SAFETY DRIVING TRAINER」はハンドルや加減速の操作をした際の車体の挙動を再現しているのも特徴です。

ハイテク運転シミュレーターはこんなにスゴい!筋金入りのペーパードライバーが救いを求めて乗ってみた
座席下にあるアクチュエーターという機械がコーナリング時やブレーキング時の車体の傾きといった動きを再現します。こうした機能によって、より実車に近い運転体験が得られます。(※画像は動きを見せるために、わざと大袈裟な運転をしてもらっています。)

井口 実際の道路を走らなくても、こういうシミュレーターで自分の特性や気を付けるべき点が分かれば、運転に希望が持てると思います。頑張ります!

「SAFETY DRIVING TRAINER」に試乗!想像を絶するダメ運転が炸裂する

運転そのものが怖くなってしまった自分には、公道を走らずとも練習できる「SAFETY DRIVING TRAINER」の存在は、まさに「希望」です。

シミュレーターに着座するも、不安の塊と化す私

シミュレーションを通して運転に真に希望を見出せるのか、それとも適性のなさを突き付けられるのか……。どちらに転ぶか全くわからない状態ですが、「SAFETY DRIVING TRAINER」を体験させていただきました。

運転席に座りシートベルトを締め、早速問題が……。

井口 ペーパードライバー歴が長すぎて、恥ずかしながらアクセルとブレーキとクラッチ、どれがどれだかわかりません……。

皆さまご存じだと思いますが……正解は右からアクセル、ブレーキ、クラッチ。なお、「SAFETY DRIVING TRAINER」のメニューはATのみなのでクラッチは使用しません

古賀 ……そう言われる方、結構いるんです。そこまで忘れてしまうのもなかなか難しいことだと思うのですが……。先ほどもお伝えしたとおり、シミュレーターなのでリスクを冒すことなく「思い出すこと」にフォーカスできますので、まずは運転してみましょう。

井口 うう、お恥ずかしい……。では早速!

蛇行、車線はみ出し、急ブレーキ。そして、コーナー大回りからの急停車と、ダメ運転フルコンボをかます私

井口 ギャーー!!やばい待ってどうしよう。ウィンカー忘れてた……自分ってこんなに運転やばいんだ!私、絶対運転しちゃダメな人間だ! 助けて~!!!!!

百戦錬磨の古賀さんも、さすがに苦笑い。「どうすっかな、これ」という心の声が聞こえてくるよう

古賀 ここまでの重症は久しぶりに見ました(笑)。「SAFETY DRIVING TRAINER」は、運転の診断をレポートしてくれる機能があるのも特徴です。早速、いまの運転のレポートを確認してみましょう。

「SAFETY DRIVING TRAINER」のレポートでは各種アドバイスの他、危険なシーンを俯瞰写真とともにログしてくれます。IDを登録しておけば、データを蓄積しておくこともでき、毎年の健康診断のように、自分の運転を見返すことができます

井口 結果は……0点。当然ですね。我ながら、こいつぁやべえと思いながら運転していました。

古賀 たしかに結果は0点ですが、ここで大事なのは点数ではなく、「どんなシチュエーションでどんな運転をしたか、ということです。レポートでは事故や危険なシーンは上からキャプチャを取っており、事故を起こした時の速度なども出ます。

さて、ここではあえてなにもアドバイスせずに運転してもらいました。なにを苦手としているか、どんなクセがあるか、井口さんの現状を確認したかったからです。いまの運転でわかる井口さんの問題点はブレーキ操作です。ブレーキを左足で踏んでいましたが、これは急ブレーキになりやすい運転です。基本的には、ブレーキは右足で踏むものです。

混乱のあまり、奇想天外な両足ペダルワークを見せる私

古賀 もうひとつ、ハンドルの握り方も要修正です。井口さんは斜めにちぐはぐな場所を握ってしまっているので、直進時の軌道が安定しないし、カーブの軌道もいびつになる。ハンドルは基本の「10時10分」の位置を握るようにしましょう。

これらはすべて教習所で習ったはずですが、長い時間の中で体が忘れてしまったのでしょう。基本を忘れてしまっていたので不安定な運転になってしまいましたが、正しい運転の仕方を思い出すだけで圧倒的に改善しますよ。

教習所で習ったことを忘れ去った私の手は、なぜか自然に「8時5分」の位置を握る

井口 実車に乗っても同じことをしていただろうと考えるとぞっとします。シミュレーターで本当によかった……。

運転操作の基本を教えてもらい、ちょっと上達!

最初は本当に自分には運転は無理だと思いましたが、シミュレーターを何度か体験するうち、運転感覚を少しずつ取り戻してる実感があります。

古賀さんの指導のお陰でブレーキがスムーズになり、急ブレーキが減り、事故を回避できてランクがひとつ上がりました。

上達が感じられると、やっぱりうれしいものです。レポートという形で定量化されるので、なおうれしい

古賀 最初とは全然違いますね。先ほどはアクセルを踏みながらブレーキを踏んでいたから、本来止まらなければならない場所も進んでしまっていました。正しいブレーキの踏み方を認識した上で、また乗ってもらいましょう。同じコースを繰り返し乗る反復練習が運転を身に付けるためには大事です。

というわけでもう一回。次のシミュレーションの前に、ブレーキを優しくかけることを古賀さんに教わります。これも基本中の基本、自動車学校では確実に習っている内容ですが……。

そして3回目の乗車!

ブレーキの基本を古賀さんが思い出させてくれたおかげで、スムーズに停車位置に停められるようになりました。その結果……

急ブレーキはゼロになりました。嬉しい!ですが、今度は事故を起こしてしまいました。駐車スペースから歩道をまたぎ、右折で車線に入ろうとすると……

車列が私の合流を待ってくれていると判断し進んでいくと、突如バイクが発進し衝突事故に……。このコースを走るのはすでに3回目なのに、こんな状況は初めて。私の動きを見たバイクが「このスピードなら先に行けるかな」や「遅いなあ、もう行っちゃおう」と判断し、発進したのでしょう。シチュエーションに応じて動きが変わるAIすごい!というか、公道だって状況は常に変化しているのだから、周囲を観察し注意を払って運転せねば、と痛感しました。

この事故の経験をもとに、「なにかが起こりそう」な場所にきちんと注意を払ってみます。すると……

飛び出してくる子どもに接触せずすみました!「トラックが死角をつくっているから注意しなきゃ」という意識があったおかげです。状況に応じて、臨機応変に安全に配慮する。これだよ、私が学びたかったのは!シミュレーターよ、ありがとう……。

この後も高速教習、雨の夜の道路を運転したりしましたが、実車に近い没入感があり、運転するにあたっていろんな方面に気を配るため、頭が疲れます……!

ハイテク運転シミュレーターはこんなにスゴい!筋金入りのペーパードライバーが救いを求めて乗ってみた

古賀 シミュレーターを体験してもらうと、その人の運転の癖が出るんです。例えば、井口さんの場合はハンドルの持ち方がちぐはぐでしたが、久しぶりの運転でこうした握り方をしてしまったのは、ハンドルの握り方にもともとあまり意識を向けていなかったから、とも考えられます。そうした自分のクセを把握して課題を発見することから、運転改善が始まります。今回の体験は、運転感覚を思い出して、課題がどこにあるのかを把握するのにちょうどよかったのではないでしょうか。

シミュレーターで基本ができたから、人や車が少ない環境で練習してみるといいでしょう。シミュレーターだけやっても、シミュレーターが上手くなるだけなので、シミュレーターと実車の反復練習がベストです。

井口 ありがとうございました。シミュレーターといえども、車体が動くので、たとえば縁石に乗り上げたときにガクンと衝撃があって、「あ、自分は危険な運転をしていたんだな」と、よりリアルに感じられました。でも、当然ですが、やはり実車にも乗らないとですね。シミュレーターのおかげで、公道を走れるかも、と少しだけ希望が持てました!

リアルな公道の状況のなかで、安全に失敗できるから、学びになる!

古賀さん、丁寧なマンツーマン指導、ありがとうございました!

車を持たずとも問題なく生活ができる地域で暮らしてきた私ですが、いつ生活環境が変わり、車の運転が必要になるかは分かりません。

必要になった時に「果たして自分は運転できるのか?」ということを心のどこかでずっと気にしていました。

今回、シミュレーションですが久しぶりに運転を体験して、アクセルとブレーキすら忘れていてこりゃダメだと思いましたが、何度か体験するうちに、運転に対する苦手意識としっかり向き合えた気がします。やっぱり人間、体験していないことって怖いんです。

人と車が行き交う公道は常に変化していて、「体験していないこと」の連続です。こうした「体験していないこと」を再現してくれるAI制御のシミュレーションは、私のようなペーパードライバーが公道を走る上での心構えを学ぶのにうってつけだと感じます。そしてもちろん、シミュレーションなので、安心して失敗しながら学べるのが心強い!

「SAFETY DRIVING TRAINER」よ、君は私にとって希望でした

なお、今回は取材として試乗させていただきましたが、基本的に一般の方はアイロックさんのオフィスに行っても体験はできませんのでご注意を。

「SAFETY DRIVING TRAINER」は企業が社員向けに導入していることが多いそうですが、教習所や警察で開催される交通安全イベントなどで一般の方も体験する機会があるそうです。私のようなペーパードライバーではなく、普段から運転する方も、シミュレーターが自分の運転を見つめ直す機会となるはずなので、ぜひ参加してみてください。

アイロックさんでは、「SAFETY DRIVING TRAINER」同様、車体の挙動も再現するシミュレーターとして「​​DRiVe-X」もラインアップしています。こちらはスポーツドライビング用のシミュレーターですが、全国さまざまな場所で試乗できるので、ハイテク運転シミュレーターのすごさを体感してみたい方は、オフィシャルサイトをチェックしてみてください!

取材・文:井口エリ
撮影・編集:はてな編集部