車のトラブルはどんなケースが多いのか。JAFのロードサービス隊員に聞いてみた

JAFのロードサービス隊員に、よく遭遇する車のトラブル事例とその原因を教えてもらいました。救援要請の多いトラブルは鍵の閉じ込み、タイヤのパンク、バッテリー上がりなど。トラブルを防止するには日々のメンテナンスや定期的な点検も大事だそうです。

車のトラブルはどんなケースが多いのか。JAFのロードサービス隊員に聞いてみた

こんにちは、ライターの井上マサキです。

ドライバーにとって頼りになる存在といえば、ロードサービスのJAF(日本自動車連盟)。私もこれまで何度もお世話になってきました。某テーマパークの駐車場でバッテリーが上がり、半泣きで電話したことも。本当に頭が上がりません。

そんなJAFに寄せられる救援要請は、1年間に219万件以上(2022年度実績)だそう。約14.4秒に1件の割合で出動している計算です。車のトラブルはこんなにたくさん起こっているのか……。

車のトラブルを防ぐにはどうすればいいのか。そこで今回は、JAFのロードサービス隊員がよく遭遇するトラブル事例とその原因、それらを防止するために日常的に行っていることを教えてもらいました。どのような仕組みで24時間対応しているのか、ロードサービスの裏側も分かりますよ。

【お話を聞いた人】

須永顕仁さん

須永顕仁(すなが・あきひと)さん:JAF東京支部東東京ロードサービス隊隊長。JAFでロードサービスに携わって23年。現在は現場を離れ隊員を統率する立場だが、若手隊員の指導のために同行することも。

大江泉葉さん

大江泉葉(おおえ・みずは)さん:JAF東京支部の広報担当。イベントや実技講習会、ユーザーテストなどの情報発信を通じて交通安全を訴求している。

【聞き手】

井上マサキ

井上マサキ:ライター。過去に何度かバッテリー切れを起こし、JAFのロードサービスにお世話になったことがある。取材では開口一番「あのとき助けていただいた井上です」と鶴の恩返しみたいなお礼を言った。

JAFのよくあるトラブル。バッテリー上がりは夏のせいじゃない!?

JAFの皆さん

車のトラブルを知り尽くしているJAFの皆さん。対応することが多い事例を知っておけば、私たちドライバーも日ごろから備えることができるのでは……?

早速、JAFのロードサービスではどんなトラブルが多いのか聞いてみた。

まずは「鍵の閉じ込み」。リモコンキーが増えたおかげで救援要請の数自体は減っているものの、なくならないトラブルの一つだそう。

須永さん
須永さん

リモコンキーを入れたバッグをトランクに置き、荷物を積み降ろして、そのままバーンと閉めてしまい……というケースがよくありますね。本来ならリモコンキーが閉じ込みを検知するんですが、そういうときに限って電池が弱くなっていたりするんです。

続いては「パンク」。パンクは出動理由の2位だが、実は2位に浮上したのは、この10年くらいのこと。タイヤのトラブルは年々増えているらしい。これは一体どうして?

須永さん
須永さん

「スペアタイヤレス」の車が増えてきたのが大きいですね。昔はほとんどの車にスペアタイヤが積まれていましたが、最近は軽量化やコストダウン、使用頻度の低さを理由に積まない車が増えてきたんです。そうなると、パンクしたらロードサービスを呼ぶしかない。そもそもスペアタイヤがあっても「交換の仕方が分からない」と、救援要請いただくことも多いですね。

そして出動理由の第1位「バッテリー上がり」! その原因は「ライトの消し忘れ」や「バッテリーの寿命」など。私がテーマパークでJAFを呼んだのもライトの消し忘れが原因でした……。後者の「バッテリー寿命」は夏場のトラブルが多いそう。エアコンとか電気をバンバン使いますもんね。

須永さん
須永さん

ただ、バッテリーをフル稼働させたからといって、いきなり駄目になるわけではないんです。冬場からバッテリーが寿命を迎えつつある状態で使い続けてきた結果、夏にとどめを刺されるのが本当のところなんですよ。根本的な原因は、メンテナンスを放置したこと。春先にでもちゃんと交換すれば、しっかり夏は乗り越えられますから。

夏に多いトラブルだけど、夏のせいじゃないのだ。疑ってごめんよ夏。では逆に、冬ならではのトラブルにはどんなものが?

井上マサキさん

須永さん
須永さん

チェーン装着の救援要請などがあります。普段から雪が降る地方の方は基本的にスタッドレスタイヤを履いてますし、チェーン装着にも慣れている。ですが、雪が少ない東京などでは「必要なときにチェーンを巻けばいいや」と考えがちなので、いざ必要なときに「どうするんだこれ……」と戸惑ってしまうんですね。

確かに「都心部で大雪」みたいなニュースのときに、車が大変なことになっている映像をよく見る。ああいうときって、JAFさんも大変なんじゃないですか……?

須永さん
須永さん

大変です……。2022年の冬に大雪が降ったときは、ある隊員はレッカー車で首都高に救援へ向かったものの、周りの車両がみんな動けなくなって、結局お客さまと一緒に首都高で夜を明かしましたから。道路がまひすると現場になかなかたどり着けないので、もどかしいですね。

JAF仕様のオリジナルキッズサービスカー
取材場所に置いてあるJAF仕様のオリジナルキッズサービスカーは、交通安全イベントで展示しているもの。コロナ禍を経て再びイベントができるようになり、子どもたちが行列を作る人気ぶりだとか

夏も冬もトラブルがあってJAFさんも大変である。でも、さすがにコロナ禍ではロードサービスの件数も減ったんじゃないですか。ステイホームが叫ばれて、出かける人も減ってましたし。

大江さん
大江さん

それが、そこまで件数は減っていないんです。確かに人の移動は減ったんですが、人混みを避けるため電車通勤から車通勤に変えた方も結構いらっしゃったんですよ。あちこちから「JAFさん暇でしょ?」って言われましたけど、全然そんなことなかったですね(笑)。

「運転席にペンギンのマークが出た」このトラブルとは?

JAFのロードサービスは全国どこでも駆けつけてくれる。どれくらい“どこでも”なのか須永さんに聞いてみると、「遊園地の波が出るプールに出動したことがありますよ」と教えてくれた。えっ!? プールですか?

須永さん
須永さん

冬場に水を抜いたプールに車を並べて、フリーマーケットをやっていたんです。夕方にイベントが終わったあと、出展していた業者さんが鍵を閉じ込めてしまったみたいで。出動時に「遊園地のプール」と指示されたときは何事かと思いましたよ(笑)。

さすがのJAFさんも船は持っていないので、プールも川も海も渡れない。しかし、JAFのロードサービスは離島でも提供しているそう。レッカー車を船に乗せて行くんですか……?

大江さん
大江さん

いえいえ(笑)。例えば、東京だと伊豆七島の大島・三宅島・八丈島にJAFの委託業者があって、そこからロードサービスを出動してもらうんです。レンタカーの利用があるので、出動する機会があるんです。

離島や山間部でトラブルに遭うと、JAFを呼ぼうにも「ここどこ……?」となってしまうが、今はJAFのスマホアプリから救援を呼べばGPSで場所の特定が可能だ。便利な世の中になった。

JAFスマートフォンアプリのトップ画像
JAFスマートフォンアプリのトップ画像(画像提供:JAF東京支部)
※アプリのバージョンによって表示内容が異なる場合があります

でも便利になったぶん、「こんなことで呼んでいいのかな?」と、ためらうことも増えそう。「そんなことで連絡したの!?」って怒られたりしないですよね……?

大江さん
大江さん

大丈夫ですよ! 「ETCカードを隙間に落としてどうしても取れなくなった」といったささいなことでも、車でお困りのときはお問い合わせいただければ。電話で解決できることも多いですし、2022年からビデオ通話でやりとりができる「ビデオアドバイザリーロードサービス」も始まりましたので。

トラブルが起きると人はパニックになる。そうなると電話での説明も難しい。ビデオ通話ならそのハードルも下がりそうですね。

須永さん
須永さん

以前「運転席にペンギンのマークが出た」という連絡があったんですよ。ベテランの隊員が「ペンギン?」と首をかしげながら救援に向かったら、半ドアの警告灯のことだったんですね。こうしたトラブルも、ビデオ通話で見せてもらえれば簡単に解決できます。ぜひ、お気軽にご相談ください。

半ドアの警告灯
半ドアの警告灯

半ドアの警告灯。言われてみるとペンギンに見えなくもない。かわいい。でも、トラブルは本当に人それぞれ。知らないマークが出たり、警告音が鳴ったりしたら驚いてしまう人もいるということなのだ。

日ごろのチェック項目やトラブル防止の秘訣を教えてもらった

教えてもらったトラブル以外にも、JAFが公開している「クルマのトラブル診断」にはさまざまなケースが紹介されている。明日は我が身の話ばかり。

でもJAFのサービスカーだって車である。うっかりトラブルを起こすことだってあるかもしれない。サービスカーがレッカーされたりしたら大変だ。めちゃくちゃ恥ずかしいんじゃないか。

サービスカーがどうやってトラブルを防いでいるか知れば、私たちの車もトラブルに遭わずに済むはず! ロードサービスの隊員さんは、普段どんなことを心がけているんですか?

須永さん
須永さん

定期的な点検に加えて、毎日必ず始業前点検を行ってから出動させています。バッテリー、オイル、ウォッシャー液、タイヤ回り、灯火類など。基本的な内容ですね。

大江さん
大江さん

JAFの公式サイトにも「日常点検15項目」というコンテンツがあります。それぞれの項目の確認方法やチェックシートを公開しているので、参考にしていただきたいです。

確かに、基本的な点検である。基本的な点検なのは分かるのだけど……正直、ブレーキ液とかオイルとか自分で見たことがなくて……。半年に1回の定期点検でも大丈夫ですかね……。

須永さん
須永さん

それだけでも全然違いますよ! 点検を受けるときに気を付けてほしいのは、「これもやっておいた方がいいですが、どうしますか?」と提案されたとき。「今回はいいです」って言っていませんか?

言ってますね……。だってお金がかかるし、必須じゃないなら次の点検のときでもいいかなと思って。

須永さん
須永さん

点検時に提案されるのは、この先トラブルに遭わないための“予防整備”。なので、費用が許す限り実施してほしいんです。例えば、バッテリーは最近ものすごく進化して、ギリギリまで性能が出るようになりました。その代わり、予兆もなくバッテリーが上がりがちなんですね。「保証期間が過ぎてるけどまだ使えるし」と、交換を先送りにするのは危険なんですよ。

それから「自分の車の整備履歴を把握すること」も大切です。自分の車でいつ何を整備したかを知っておきましょう。整備履歴は記録簿に記載してもらえるので、できれば毎回目を通してもらえたらと思います。

分かりました! 他にも日ごろから備えておいた方がよいことはありますか?

大江さん
大江さん

車の中の備えとしては、車に閉じ込められる最悪の事態を想定して、側面窓ガラスを割る緊急脱出用のハンマーを置いておくのがおすすめです(編注:フロントガラスは割ってもひびが入るだけで脱出できません)。シートベルトカッターや発炎筒と一体型になっているものがあるので、運転席の手の届くところに置いてもらえたら。

緊急脱出用のハンマー

そして何より、トラブルに遭わないためには「車で出かけない」という判断も重要なのだそう。

大江さん
大江さん

大雨や大雪といった悪天候のときに車で出かけるのは、やはりトラブルのもとになります。最近は雨雲レーダーで線状降水帯などが分かりますし、自治体のハザードマップには水没しやすい場所などが記載されていますので、ぜひチェックしてください。「事故に遭わない環境」に身を置くのが、何より安全ですからね。

ロードサービスは「技術3割、接客7割」の仕事

それにしても、ロードサービスのお仕事って大変だ。呼ばれるまでどんな車でどんなトラブルが起きたのか分からないし、実際に駆けつけて「無理ですね」と帰るわけにもいかない。横転や脱輪なんてしてたら、「これを私がなんとかするの……!?」ってつい思わないだろうか。

新人隊員の方が独り立ちするまでって、どれくらいかかるんですか?

須永さん
須永さん

だいたい2年弱ですね。最初の1年はバン型サービスカーでバッテリー上がりや鍵の閉じ込みといった軽作業の経験を積み、その後1年くらいかけてレッカー車に1人で乗れるようになる、という感じです。

とはいえ、若い隊員は知識や経験がまだ足りないので、現場で「どうしよう……」と悩んでしまうこともある。そんなときのために「ベテランだらけのコールセンター」を用意しているそう……!

大江さん
大江さん

社内の問い合わせだけに対応する「テクニカルサポートセンター」が24時間稼働しています。全国からベテランの隊員を集めて、技術的なアドバイスをしているんです。先ほどお話ししたビデオ通話も活用していて、「脱輪した車をどの角度からどう引っ張ったらいいか」といった指示もしていますね。

とはいえ、全ての隊員がどんなトラブルでも直せるかというと、そういうわけではない。

特に最近の車はパーツが進化しているため、どこかが壊れると「パーツの塊を丸ごと交換する」ということになり、修理工場に運ぶしかないのだそう。

そのため、隊員に必要なのは原因を突き止める技術力と、現場でできることをジャッジする判断力、そしてお客さまとのコミュニケーション能力なのだという。

須永さん
須永さん

実はロードサービスは「技術2~3割、接客7~8割」の仕事コミュニケーションがきちんと取れる隊員でないと、ロードサービスは務まらないんですよ。原因究明には車の様子をヒアリングすることが欠かせませんし、作業方針が決まったらお客さまに分かりやすく説明する必要がありますから。

コミュニケーション能力の高さは、そのまま満足度にもつながる。ロードサービスという仕事のやりがいを聞いてみると、「『感謝される仕事』という一言に尽きます」と須永さんは言う。

須永さん
須永さん

作業完了とともに、リアルタイムでお客さまに喜んでいただけるので、何より達成感がありますね。「毎日ありがとうって言われる仕事ってそうそうないよ」と、うちの隊員にもよく言っています。後から丁寧なお礼状をいただくこともあって、すごく励みになりますね。

JAFの皆さん

交通安全の啓発もJAFの仕事

今でこそ、車のトラブルがあったらJAFに連絡すれば助けてもらえるが、JAFができる前、路上で車にトラブルが起きたときはどうしていたのだろうか。

JAFが生まれたのは、今から60年前の1963年。日本は高度経済成長期で、一般家庭に自家用車がどんどん普及してきた時期である。

須永さん
須永さん

自動車販売店がお客さまから連絡を受け、社員を派遣して助けていたみたいですね。車を売ったお店がサポートをする、という考え方だったようです。

しかし、車の販売台数がうなぎ登りになるわ、高速道路がバンバンできてトラブルも多発するわで、自動車販売店ではカバーし切れなくなってきた。さらに、1964年の東京オリンピック開催もJAF設立の理由の一つになったという。

大江さん
大江さん

海外の選手団が持ち込んだ自動車を、日本で受け入れることになったんです。そうなると、やはり車をケアする人が必要になります。こうした状況を解決するため、国内の自動車業界によってJAFが設立されました。

JAFの歴史は、ロードサービスの歴史でもある。24時間365日体制でトラブル対応を受け付けており、全国1,400ヵ所以上の拠点から速やかに救援に駆けつけてくれるのだ。助けがほしいドライバーにとって、JAFの隊員さんは「神」以外の何者でもない。後光が差して見えるもの。

大江さん
大江さん

大規模災害が発生した際には、被災地に「JAFロードサービス特別支援隊」も派遣しています。今年は8月に起きた秋田の豪雨災害などに派遣していますね。

「JAFロードサービス特別支援隊」は、全国の支部から選ばれた精鋭たちによって結成され、特別な研修や訓練も重ねているそう。そんなこともやっているんですね。

ロードサービス以外にも、2,000万人以上いる会員への優待サービスや、講習会や交通安全イベントの運営、「JAFユーザーテスト」をはじめとした交通安全の啓発もJAFの事業である。

例えば、ペーパードライバーなど運転に苦手意識を抱えるドライバー向けには「実技講習会」を実施。インストラクター指導のもと、自身の運転技術を確認できる。

ドライバーズセミナーでのスラローム走行の様子
ドライバーズセミナーでのスラローム走行の様子(画像提供:JAF東京支部)

交通安全のポイントを学べるWebコンテンツもたくさん「実写版」危険予知・事故回避トレーニングというコンテンツでは「交差点編」「坂道編」「自転車編」「狭路編」と動画を拡充している。

自動車ユーザーのニーズに対応し、JAFは日々進化しているのだ。

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JAFの方から聞くトラブルの数々は、言うなれば「ほんとにあった怖い話」である。鍵の閉じ込みも、突然のバッテリー上がりも、大雪の立ち往生も、本当にあるのだ。

そして、そのトラブルの数々に対応するロードサービスの隊員の方々には、改めて感謝したい。この記事をここまで読むのに何台も出動があったかもしれないけど、教えてもらった防止策を意識すればトラブルを減らせるはずだ。

この記事のおかげで出動回数が減り、隊員の方々が「何だか最近余裕ができたね」って言うようになったらいいな……と思います。

井上マサキ

著者:井上マサキ

ライター。大学卒業後、システムエンジニアとして勤務。2015年よりフリーランスのライターに。理系・エンジニア経験を強みに、企業取材やコラムなど幅広く執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも出演。著書に『たのしい路線図』『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか』など。

撮影:小野奈那子
編集:はてな編集部