パパ・ママに知っておいてほしい「車の防災対策」。東日本大震災を経験した私の備え

いざという時のため、普段から車に常備しておきたい防災グッズとは? 東日本大震災での被災経験があり、防災士の資格を持つアベナオミさんが解説します。充電ケーブル、非常用トイレ、ペットボトルの水などを紹介。

こんにちは。イラストレーターで防災士のアベナオミです。宮城県多賀城市出身で、現在は杜の都・仙台で3人の子育てに奮闘しています。現在はイラストレーターとしての執筆活動の傍ら、子育て中のパパ・ママに向けて防災対策の大切さを伝えるのがライフワークとなっています。

防災士の資格を取ったのは、2011年の東日本大震災での被災経験がきっかけです。当時も宮城県にいて、長男は1歳7ヵ月。幸い自宅に大きな被害はなく、家族は全員無事でしたが、所有していた車2台のうち夫の車は沿岸部で津波に流されて廃車に。ライフラインの止まった被災生活は1ヵ月にも及びました。

震災翌日の私と長男。石油コンビナートの火災が発生し、不安な日々が続きました
震災翌日の私と長男。石油コンビナートの火災が発生し、不安な日々が続きました

大地震による停電ガソリンスタンドの閉鎖、さらには津波による通行止め……。そして、その日は大雪でとても寒い天候でした。さまざまなトラブルを一度に経験することになったのです。

私はガソリンスタンドへ向かう途中、運転中に被災しました
私はガソリンスタンドへ向かう途中、運転中に被災しました

翌日から始まった被災生活は、水と電気がない状態での自宅避難。後述しますが、私は車にガソリンを入れに行くところで被災しました。そのためガソリンも残りわずか。遠くのスーパーへ買い出しに行くこともできず、物資不足でとても困ったのを覚えています。ちなみにガソリン不足は1ヵ月以上続きました。

どこのお店も行列ができ、物資を求めて前日から並ぶ人も多かったです
どこのお店も行列ができ、物資を求めて前日から並ぶ人も多かったです

振り返ってみると、「あのときこうしておけばよかった……」と後悔することもたくさん。特に「車の防災対策」はとても大事だったなと思います

今回はそんな被災経験のある私が、防災対策の基本から、普段から心掛けている「車の防災対策」、災害に備えて車の中に入れているもの……などをご紹介します!

防災対策の基本は「リスクを知る」ことから

まずは基本的な防災対策から。お住まいの地域のリスクを調べるところから始めましょう。

【1】住んでいるエリアのリスクを知っておく

皆さんは自分の住んでいるエリアにどんなリスクがあるのかご存じですか。地震・津波だけではなく、洪水・浸水・土砂災害など、さまざまな災害が想定されています。

国や自治体、NHKなどの報道機関が公開しているハザードマップを見てみると、住んでいるエリアのリスクを把握できます。それをもとに、自分たちの住んでいる場所ではどんな災害に備えておかなければいけないのか、ぜひ一度家族で話し合いをしてほしいです。

ハザードマップポータルサイト
【NHK】ハザードマップ|洪水・浸水・土砂災害

【2】災害時に車をどう使うかを決めておく

住んでいるエリアによって「車の防災対策」も変わってきます。災害時に車をどのように使うのか(遠方に避難するため? 車中泊するため? 在宅避難のため?)によって、必然的に備えも変わってくるはず。

なお、大雨や津波の避難に車を使うのは水没などの危険性があり注意が必要です。また、首都直下地震発生の際は、都心部では車両の使用を控えるよう要請が出ています。自分の住んでいるエリアや、災害の種類によって車をどう使うか決めておきましょう。

首都直下地震発生時等の車両使用自粛のお願い|警察庁Webサイト

【3】運転中に災害が発生したらどう対応すべきかを覚えておく

運転中に災害が発生したら、どう対応すべきか知っていますか?

実は運転免許を取得する際に習っているはず……なのですが、忘れている方も多いかもしれません。この機会にあらためて確認しておきましょう。

大地震が発生したときに運転者がとるべき措置|警察庁Webサイト

普段から心掛けている「車の防災対策」

日常的に車を運転する私が、普段から災害に備えて心掛けている「車の防災対策」は2つあります。

【1】給油の頻度を上げる

アベ家ではガソリンメーターが半分になったら給油するルール。最初はガソリンスタンドで「まだたくさんありますよ?」と声をかけられることもあり少し気恥ずかしさもありましたが、今では徹底しています。最初は忘れがちだった夫も、口を酸っぱくしてお願いしていたら忘れずに給油してくれるようになりました。

震災後、宮城では多くの人が続けている備えです。

【2】何でも密閉袋に入れておく

万が一、車が水没しても、密閉袋にものを入れておけば水から守れます

私は子どものおむつや充電ケーブル、LEDライト、お菓子……など、車に置くものは何でも密閉袋に入れています。

万が一、車が水没しても、密閉袋にものを入れておけば水から守れます

災害に備えて車の中に入れている防災グッズ

私が車に常備しているアイテムはこちら。

車に常備しているアイテムは、車避難の備え、ライト類、エネルギーの備え

それぞれについて詳しく紹介していきます!

【1】充電ケーブル

複数台のスマートフォン(デバイス)を充電できるように2本以上持っておきましょう。

充電ケーブルに限った話ではありませんが、災害時は運転席から身動きが取れなくなってしまう可能性もあるため、運転席から手が届くように我が家ではダッシュボードに入れています。

東日本大震災で被災した際は、充電ケーブルを車に積んでいなかったため車から充電できず……。震災直後、避難所などで1人10分までの充電サービスもありましたが、2時間以上並びました。当時のスマートフォンは10分ほどでは全然充電できず困った経験があります。あのとき、車に充電ケーブルがあればと何度も思いました。

【2】LEDライト

災害時、車のガソリンやスマホの充電を温存しておきたい場面は多いです。そうしたときの明かり確保用にLEDライトを備えておいています。車内だけでなく、車から降りて歩いて避難しなくてはならないときにも使えますよ

LEDライトは乾電池式、ソーラー式、手回し式などさまざまな種類がありますが、どれか一つではなく複数の種類を持っておくのがおすすめ。どれかが使えなくなっても、他のものが使えると安心ですよね。

災害時、特に乾電池はすぐに売り切れてしまって入手しにくくなるので、その間を他のものでしのげると安心。車内の収納スペースに合わせて用意しておけばOKです。ライト類も密閉袋に入れてダッシュボードに入れています。

【3】エマージェンシーシート(保温シート)、ブランケット

寒いと体力を消耗してしまうため、災害時に体を保温できるものは非常に大事。冬だけでなく年中トランクに入れています。

特にブランケットは2~3枚用意していて、災害時だけでなく、普段から車内やお出かけ先での子どもの体温調節に役立っています。

【4】非常用トイレ(+色付きのレインウェア・ポンチョ)

水や食事はどうにか我慢できても、トイレだけはどうにもなりません。100円ショップや薬局でも手に入るので、非常用トイレだけはぜひ用意してほしいです。ポリ袋+猫砂など専用品以外で代用しようとするのは、ニオイ対策などの問題から全くおすすめしません。

非常用トイレは薄くてコンパクトなのでダッシュボードなどに入ります。車中には大人1人につき最低でも5個くらい必要です。普段から長距離を運転するようならもっと多めに用意をしておくと安心だと思います。

ちなみに車内ではこのくらいで十分ですが、自宅には100個単位で備えておくのがおすすめ。私の被災生活では断水が1ヵ月にも及んだんです。その間トイレは水があれば流せることは流せるのですが、下水による二次被害を防ぐため流してはいけません。

小さいお子さんがいる場合はおむつ+おしりふき+防臭袋のセットを、大きめの密閉袋に入れて持ち歩くようにしましょう。

あわせて色付きのレインウェア・ポンチョを。雨対策だけでなく、やむをえず屋外で用を足すときの目隠しになります。

【5】水(ペットボトル500ml)

ペットボトルは車内に最低1本は必ず置いています。日の当たらない場所、かつ運転席から取り出せるようにダッシュボードに入れています。東日本大震災の直後は2リットルのペットボトルを2〜3本入れていたのですが、見直してこの形に落ち着きました。被災時、水は最も重要なので意外と早く被災地にも支援物資が届きます。

車の備えとして置いてはいますが、「災害用」として置いているわけではなく、普段から子どもが「喉乾いたー!」と言えばこの水を渡しています。普段から使うことで、いざというときの賞味期限切れも防げます。

【6】お菓子

お菓子は車内ではなくお出かけかばんの中に常に入れています。普段から子どもにあげるために持ち歩いていますが、それだけでなく、万が一のときにはエネルギー補給にも。水と同様に「災害用」としてではなく、普段から使う・食べることで賞味期限切れを防げます。

このように水や食料品を多めに買い置きしておき、古いものから消費して、消費した分を買い足す備蓄方法を「ローリングストック」といいます。

ローリングストック

ここまでが我が家の車の備えでしたが、もし海の近くや津波到達エリアに住んでいるなら、【1】〜【6】で紹介したものに加えて、非常食なども入った「非常用持ち出し袋」に近いものを車内に備えておくのがおすすめ。より用心しておきたい人は救命胴衣もあると安心です。

また、雪の多いエリアでは大雪での立ち往生の可能性も意識しておきましょう。大雪の際、車のマフラーが雪でふさがってしまうと、車内で一酸化炭素中毒になる危険性があります。そのため、小さいサイズや折りたたみ式のもので良いので、雪かきスコップを車内に置いておくと安心です。ガソリン切れになる可能性もあるので、カイロやエマージェンシーシート(保温シート)など体を温めるものがあるとなお良いでしょう。

防災は「ちょっと心配性なくらい」がちょうど良いのかもしれません。災害時に「なくて困った」よりも「あったけど使わなかった」方がいいですよね。

東日本大震災で私が体験したこと

注意
ここから下は、東日本大震災発生当時の著者の体験を写真とともに記載しています。地震・津波の映像はありませんが、震災発生直後に車内から道路の様子を撮影しています。また、震災発生後、津波に飲み込まれた車体の写真が複数枚掲載されています。ご覧になる際はご注意ください

今でこそ、今回の記事で紹介したような備えをしていますが(もちろん車だけでなく自宅は自宅で備えがあります)、やはり東日本大震災での被災経験が大きかったからです。ここからは、私が2011年にどんな経験をしたのか少しだけ紹介します。少しでも「備えの大切さ」が伝わればうれしいです。

【1】東日本大震災の発生当日(3.11)

地震が発生した瞬間、私はガソリンスタンドへ向けて運転中でした。横風でハンドルが取られるような感覚で「あれ? なんだろう?」と思っているうちに周りの車が路肩に停車しはじめ、私も停車したところでドカーーーーンと大きな揺れに襲われました。

ハンドルにしがみついていないと、ドアのガラスに頭をぶつけそうなほど。すさまじいパワーの揺れでした。3分後に揺れが収まったところで、周りの車も動きはじめ、私も車を走らせました。

揺れが収まった直後、停車した車内から撮影した様子
揺れが収まった直後、停車した車内から撮影した様子。当時のスマートフォンの画質なので少し粗いですが……

揺れが収まったと同時に大雪が降り出しました。目の前にはJR利府線の車両が緊急停止したまま。あちこちの住宅でブロック塀が崩れていました。停電も発生し、信号機は止まって、至る所で渋滞が発生。私は急いでガソリンスタンドに向かいましたが、もう閉鎖されていました。

自宅の安全を確認してすぐに、長男をお迎えに。その足で実家の安否確認へ。実家は大きな被害を受けていたものの、家族の安否が確認できたので、私は沿岸部にいる夫が心配になり海に向かって車を走らせました。

大雪で視界の悪い交差点でふと、「信号機も止まっているし国道45号線は大渋滞だろうな……」と進路を変更して、内陸側の道から夫の会社を目指すことにしました。

実はこの時、津波はすでに国道45号線を飲み込み、私の車の500m手前まで迫っていました。雪で全く津波が来ていることに気が付いていなかったんです。とっさの判断で、津波を回避できたことは本当に幸運でした。

当時は電話もメールもつながらない状況でした。ラジオは聞けていて「大津波警報が発令されています。6メートルの津波が予想されています」と情報を得ていましたが、6メートルの津波が内陸のどこまで到達するのかまでは想像ができず……。

もちろんテレビも見ていないので、実際に津波が来ていることすら知りませんでした。どれほど危険かイメージできない上に、大地震でパニックになり、「夫をお迎えに行かなければ!」と思い込んでしまいましたが、今思えば危険な行動でしたね……。

ただ、ハザードマップを確認していたら、最初から「海沿いの国道45号線を避ける」判断をしていると思います。やはりハザードマップで自分の住んでいるエリアにどんなリスクがあるのか? を把握しておくことは大切だと感じます。

震災から数日後の多賀城市内を通る国道45号線の様子(アベの兄が撮影)
震災から数日後の多賀城市内を通る国道45号線の様子(アベの兄が撮影)

その後、夫の会社近くまで行ったものの「津波で通行止めです!」と叫び続ける市役所の職員さんに誘導され、夫に会えないまま帰宅しました。

夫はというと……震災発生直後に「車を取りに行かないと」と駐車場に向かおうとしたそうです。他の人たちに「車なんて取りに行ったらダメだ! 間に合わない!」と説得されて、避難所に向かって命拾い。夫は避難所で21時ごろまで過ごし、22時ごろ自宅に帰宅。私たちは再会を果たすことができました。

津波に巻き込まれた夫の車(写真中央の青い車)
津波に巻き込まれた夫の車(写真中央の青い車)

【2】3.11の翌日からの被災生活

翌日から始まった被災生活は水と電気がストップした状態。車のガソリンが残りわずかだったため、遠くのスーパーに買い出しへ行くこともできませんでした。

曲がった道路の様子

情報を求めて避難所に行くときも、開店しているお店を探すのも基本徒歩。あちこちでマンホールが地面から飛び出し、当時1歳の長男が歩くにはとても危険でしたね。

その後、ガソリン不足は1ヵ月以上続き、その間は車を使えませんでした。私は長男をおんぶして移動していたので、毎日くたくた。車に乗っている人がうらやましかったですね……。

この経験があったので、今は「ガソリンが半分になったら給油」を徹底しています。せめて半分以上ガソリンが残っていたら、少しは気持ちに余裕があったかもしれません。

車は「頼もしい防災グッズ」の一つ

災害時、車は避難するための手段にも、避難所にもなります

「避難所」というと、行政が指定した避難所を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、それだけではありません。少し遠方の実家や親戚宅、被災エリアから離れたホテルや旅館など、それぞれのご家庭の判断で(お金はかかりますが)さまざまな避難所を選択可能です。

遠方に避難するにはやはり移動手段が必要です。バスや電車などの公共交通機関は、災害後復旧に時間がかかるため、いざというときに遠方避難を考えている人にとって自家用車は不可欠な存在かもしれません。

私はこのように考えているので、車は少し大きいですが「頼もしい防災グッズ」の一つと捉えて、車中にさまざまなものを常備しているわけです。

あなたの車、ガソリンは満タンですか?

さあ、あなたの車。ガソリンは満タンですか? 半分になっていたら忘れずに給油してくださいね!

アベナオミ

著者:アベナオミ

宮城県在住。夫、長男(13歳)、次男(7歳)、長女(4歳)との5人暮らし。以前は夫婦それぞれ1台ずつ車を所有していたが、引っ越しをきっかけにトヨタ「アクア」1台を夫婦で共有するように。イラストレーターのかたわら、全国の子育て中のママパパに防災の大切さを伝える活動することが、ライフワークです。

編集:はてな編集部