駅から離れた場所に存在し、国道や県道などの大通り沿いでしか見ない店がある。それを「ロードサイド店舗」と呼び、その中には独自の進化を遂げた「ロードサイドグルメ（街道グルメ）」が存在する。
今回、専門家にアドバイスをもらって、おすすめのロードサイドグルメを味わってきた。
長年にわたって地域の人やドライバーたちに愛される名店。そこには大手チェーンでは体験できない独特の味と魅力があった。
1988年神奈川県生まれ。普通の会社員。デイリーポータルZを中心に活躍し、食べ物ネタを中心に食べっぷりを披露する記事が多い。好きな食べ物はカレーとチャーハンと薄皮クリームパン。
- X（旧Twitter）：@enoshigemi
そもそも「ロードサイドグルメ」とは
くるまも編集部から「ロードサイドグルメをおいしく食べてレポートしてほしい」と依頼された。おいしいものが食べられるならどこにだって行く所存です。
そうは言っても、ロードサイドグルメって普通の飲食店と何が違うのか……。定義はあるのだろうか……？
そこで今回は、『街道のグルメ』という著書も持ち、全国のロードサイドグルメに造詣が深い刈部山本（かりべ・やまもと）さんにおすすめのお店を聞いてみた。
【お話を聞いた人】
刈部山本さん：1975年生まれ。埼玉県出身。大衆食・町歩きライター。著書に「埼玉『裏町メシ屋』街道旅」、「東京『裏町メシ屋』探訪記」（ともに光文社）、「街道のグルメ」（辰巳出版）など。
- X（旧Twitter）：@kekkojin
- ブログ：デウスエクスマキな食卓
まず、刈部さんにロードサイドグルメの定義について聞いてみた。
ロードサイドグルメは、地元民がよく利用する国道などの幹線道路沿いにあるお店です。
長年愛されてきたことで、お客さんに喜んでもらいたいという思いで量が多くなったり、他では目にしないようなメニューが生まれたりと、独自の文化が開花した飲食店、といったところでしょうか。
道路沿いにあるお店はそんなに開拓していなかったな……。量が多いのはうれしいし、独自の文化に触れてみたい。
ロードサイドグルメの魅力はどんなところにあるのだろう。
現地に行かないと食べられないものやお店そのものに独特の雰囲気があるのが魅力です。
また、特定の地域だけにしかない「ローカルチェーン」が存在していて、その土地に住んでいる人たちの間では「存在が当たり前」になっているのも興味深い点ですね。
実際にお店に行ってみると発見や驚きがあって、「巡りがい」を見出しています。
今回は車でのアクセスを前提として、さまざまな観点から、おすすめの「ロードサイドグルメ」を選んでもらった。
刈部さんがセレクトしたのは、ガッツリ系のお店、ファミリーで楽しめるお店、名物デザートあるお店、巨大なテイクアウトができるお店……などなど7店舗！
セレクトしてもらった中から、特に気になった3店を実際に巡ってみる。
※今回訪れなかったお店は最後に「おまけ」として紹介しています
ロードサイドグルメを求めて。東京から茨城へドライブ
自分が運転するみたいな顔をしているが、運転は人にお任せ。なぜなら、ペーパードライバーだからだ（運転免許証を取得してから運転してないのでゴールド免許です）。
【1店目・るぽ】「アイドルセット」とパフェで笑顔になる
最初は東京都清瀬市の志木街道にある「るぽ」というお店。地元の人たちでにぎわう喫茶店である。
るぽ
【刈部さんのおすすめポイント】
- どこの駅からも離れた立地ながら人が集まってくる、地元の人たちに人気のゴージャスな洋館スタイルのレトロ喫茶
- パフェなどスイーツもおすすめだが、ガッツリとした食事メニューも充実しており男性客が多い印象
- 特にトマトソースのピザ風のハンバーグがおいしい
レトロを感じるお城のような外観で、まるでヨーロッパに来たと錯覚しそうになるが、ここは清瀬だ。ヨーロッパ気分でいたら多摩ナンバーの車に囲まれていた。
入り口から見上げたお店のおしゃれさに足がもつれそうになるが、店内に入ってみる。
一歩お店に入るとそこは、ノスタルジックで落ち着いた雰囲気。こちらのお店、ドラマの撮影にも使われたこともあるそうだ。確かにどこで撮影しても絵になるもんな。
外観、内装だけではなく、もちろんコーヒーにもこだわっている。
グアテマラやエチオピア、タンザニアなど世界各国のコーヒー豆から挽いた香り高いコーヒーを味わうことができる。
さて、自分は何を食べるか。訪れた時間帯は、お客さんたちは朝限定の「おはようメニュー」を味わっていた。トーストやサンドイッチなどのパン類とコーヒーがセットになった、食べたら元気に「おはよう！」と言いたくなるメニューだ。
自分も優雅にコーヒーを飲みながら、トーストを味わおうと思っていた。
しかし、あるメニューが目にとまった。そのメニューは「アイドルセット」だ。聞いたらハンバーグが付いているらしい。そんなの頼むに決まっているだろう。
朝からハンバーグかと思うが、それは私も一緒に撮影に来た編集部の人も思っているので大丈夫です。
ハンバーグは「デミグラスソース」か「トマトソース」が選べて、パンも「クロワッサン」か「バケット」が選べる。ハンバーグはデミグラス、パンはクロワッサンにした。
オムライスも食べたかったが我慢した。
これがアイドルの輝きか……。
アイドルの輝きがまぶしいし、量がすごい。自分が子リスならサラダだけでおなかいっぱいになる。子リスじゃなくてよかった。
早速ハンバーグから食べてみよう。
ハンバーグにはうるさいからな。
めちゃくちゃうまいな……。
玉ねぎがたっぷり入ったハンバーグは、噛むたびにあふれる甘みと肉汁のうまさがバツグンだ。ちょっと喫茶店で食べられるハンバーグの域を超えている。推しのアイドルが目の前にいる気持ちになった。
パンもおいしい。
すごく満足した。朝からパワーがあふれてくる。このパワーをデザートにぶつけることにした。
でかいな。
気軽に頼んだら、かなり大きなパフェが来てたじろいだが、おいしそうなので食べることにした。
えー食べきれるかなー。
別腹だな。
ロードサイドのお店というものに対して「わざわざ車で行くのか……近場でよくないか？」と思っていた。……が、おいしさもさることながら、地元の人に愛されてそこにしかない魅力が詰まったお店であるとハンバーグを食べながら感じた。
デザートも食べて満足である。とても良いスタートを切ったなと思った。
次のお店へは車で1時間半近くかかる。
くるまも編集部：江ノ島さんは最近車でどこか出かけましたか？
江ノ島：静岡までハンバーグを食べに行きましたね。
くるまも編集部：いいなぁ……。車でしかアクセスできないようなお店もけっこうありますよね。……あれ？ さっきも「るぽ」でハンバーグ食べてませんでしたっけ？
江ノ島：さっきのハンバーグは手作り感があって、全然別のジャンルなので大丈夫です。
くるまも編集部：なるほど（笑）。今日はこれからラーメン屋さんともつ煮屋さんへ行きます。移動している間におなかをすかせておいてくださいね。
江ノ島：東京から茨城へ。大移動だ。
外に広がる畑や田んぼを見ていたら2店目に着いた。
【2店目・ゆにろーず取手店】スタミナ丼でスタミナをゲットする
ゆにろーず取手店
【刈部さんのおすすめポイント】
- トラックドライバー向けのドライブイン的存在。「にんたまラーメン」が売りだが、丼物なども充実
- 個人的にはスタミナ丼がおすすめ。いわゆる豚丼で、肉厚で食べごたえバツグン
- 店内にはゲームコーナーがあって、クレーンゲームなどが楽しめる
茨城県を中心に展開するゆにろーず。千葉県や埼玉県、石川県や大阪府にも店舗がある。お店によっては大浴場や宿泊施設がある、長距離ドライバーさんにも優しいお店だ。
名物は「にんたまラーメン」。にんにくとたまごが入ったガッツリしたラーメンである。
店内はザ・食堂という雰囲気。普段行かないようなお店にテンションが上がる。上がり過ぎてこのままみんなで海までドライブしたい。夕日を見に行こうぜ。
「にんたまラーメン」にはメガ盛がある。麺が3玉入っていて、2.6キロあるそうだ。
ラーメンもおいしそうだが、刈部さんおすすめの「スタミナ丼」を。メニュー表を見たら、ものすごい数のメニューがある。どうしよう、チャーハンセットを頼みたい。でも、我慢してスタミナ丼にした。
食券で購入をし、番号が呼ばれたら自分で取りに行き、食べ終わったら返却口へ自分で持って行く。気を使わずに自分のペースで食事ができるのがいい。
待っている間、ゲームコーナーで時間を過ごす。パチンコやスロット、クレーンゲームなど大人向けのゲームが多い。どこまでリラックスさせる気だ。
いろいろな景品があるが、大容量の加湿器がある。ちょうど欲しいと思っていたところなので、当てて家を加湿しようと思う。
今、ロードサイドグルメよりも加湿器に気持ちが傾いている。加湿器を絶対に取りたい気持ちで茨城にいる。
家電量販店のポイントを使って加湿器を買おうと思っていたが、もしここで取れたら、そのポイントでいろいろな機能が付いた体重計を買いたい。筋肉量とか体脂肪率とか計れるやつ。
加湿器！
加湿器！！
加湿器……。
加湿器は取れず、ポイントで加湿器を買うことが決定した。運転手さん、帰りに家電量販店があったら寄ってほしい。
そんなことをしていたら番号が呼ばれた。加湿器は取れなかったが、スタミナは取りに行く。スタミナをつけて加湿器を買いに行こう。
これがスタミナ丼。
肉の照りとにんにくの香りが食欲をそそる。
食べる人にスタミナを与えようとする思いが伝わってくる。思いというか香り。
ごはんの量がお茶碗3杯ぐらいある気がする。「絶対におなかいっぱいにさせる」という思いやりを感じる。いつだって思いやりの気持ちを持っていたいものですね。
自分のスタミナ丼を食べよう。
パク。
ガツンとくる味でおいしい。
にんにく醤油で炒められた薄い豚バラは、ガツンとした少ししょっぱめの味付け。にんにくもこれでもかと使われていて、一口食べたら口いっぱいにんにくの風味が広がり、スタミナがあふれてくる。
さらに生卵をかけたら、世の中で一番おいしい食べものになった。
にんたまラーメンも手を付ける前にもらう。
どうだ。
ちょっと！ これもおいしいじゃないか。
その名前の通り、にんにくがたっぷり使われたラーメン。豚骨醤油のスープは豚骨のコクとうまみ、醤油のキリッと甘辛さが口に入れた瞬間に広がり、そこににんにくの風味がふわっと香る。風邪をひいたときに食べたい。
このあと、無心で食事を楽しんだ。
満足した。もう帰って寝てもいい。
ごはんをたくさん食べて、ラーメンも食べて、とてもスタミナがついた。このまま車に揺られて眠りたい。
助手席で寝てると運転手さんに悪い気もするが、そんなこと関係なく寝るタイプです。
帰るときに調味料があるのを知った。追いにんにくができる。
みんな、おなかいっぱいになってきたのか口数が減ってきたが、最近行った旅行の話とかして車内の空気を盛り上げようとした。
取引先の人と無難な会話をするときの空気ってあるな……。
【3店目・とん平食堂】「もつ煮定食」で地域に根付いた食を味わう
最後にやってきたのは茨城県牛久市にある「とん平食堂」。2店目のゆにろーず取手店から30分もかからない距離、同じ国道6号沿いにある。
とん平食堂
【刈部さんのおすすめポイント】
- 郊外ロードサイドには、もつ煮込み定食の専門店が意外とある
- こちらもそういったお店で、水戸街道を通るドライバーの腹ごしらえの場所として、長年根付いている
- もつ煮はテイクアウトもできる
最後だからデザートだと思っただろう。そういう案もあるが最後はもつ煮。
一人だと入りにくいタイプのお店だが、こういうお店にこそおいしいものがある。
中はカウンターを中心にテーブル席は2ヵ所ほどしかない。パッと食べてパッと帰る。そんな食事が似合うお店だ。
「茶色の食べ物は全部おいしい」というのが自分の認識なので、カツやラーメン、もつ煮込みなど、壁中に貼られているメニューは全部おいしい。ずるいな。誘惑しないでほしい。
刈部さんおすすめの「もつ煮定食」。
とん平食堂のもつ煮込みにはこれでもかというほど、もつが入っている。どこを食べてももつ。そして、味噌の豊かな香りはどこかマイルドでコクが感じられ、もつにもしっかりと味が染みこんでいる。
そして、もつ臭さも感じられず、やわらかな食感。これはかなりうまいな……。
そしてごはんの量がすごい。
3店目にして、ごはんの盛りがすごく多い。一般的な定食屋のごはん3杯分ぐらいある。昔話に出てくるごはんが来たなと思った。
おなかはそこそこいっぱいである。
モツを食べる。
おいしい……。
おなかいっぱいでもおいしいのだ。おいしいものは別腹である。どんどん食べていく。ただ、ごはんが減らない。誰か目を離した隙に入れてないか。
これ本当に普通盛り？ 間違って大盛りがきてないか。
普通盛りだ。
伝票を見たが、普通盛りだった。これでこの量はお得である。たまに「お兄さん、たくさん食べるだろうから大盛りにしてあげたよ」とごはんを大盛りにしてくれる店員さんがいるので、そのパターンかと思った。そのパターン、感謝しています。
あまりにもごはんが減らないので外を見たら、
空がきれいだった。
おいしいのでなんとか食べられた。かなりおなかいっぱいである。これで1,000円出したらおつりがくるなんて安い。
ドライバーさんが多いお店ということもあり、この店もおなかいっぱいにさせるというお店の思いやりを感じる。
量が多いだけではなく、おいしさにもこだわっており、もつはたっぷりと、みそはコク深くて最後まで風味を感じながらおいしく食べることができた。
食べ終わった車の中で寝た。
こうやって、清瀬→取手→牛久とロードサイドグルメをハシゴした。
どのお店も地元の人たちの憩いの場として、そしてドライバーさんのひとときの休憩所として存在している。そこには一般のお店にはないサービスが多くあった。
刈部さんは「ロードサイドグルメは独自の進化を遂げている」と言っていたが、その進化の一端を感じられた気がする。
まだまだ紹介しきれないほどのロードサイドグルメが日本中にある。
次の絶品ロードサイドグルメを求めて、車は走り出したのだった。
本当はこのあと、それぞれの家に帰った。
【おまけ】個性派揃い！ おすすめロードサイドグルメ
最後に刈部さんおすすめロードサイドグルメの一部を紹介する。第2弾があるならラーメンを食べたい！
珈琲屋OB ログ八潮（本店）
外観（珈琲屋OB ログ八潮提供）
【刈部さんのおすすめポイント】
- デカ盛りローカルチェーン
- 金魚鉢で出てくる冷たいドリンクが名物
- 家族連れのほか、地元女性連れも多い
チャーシュー力 V3 三芳店
外観（チャーシュー力 V3 三芳店提供）
【刈部さんのおすすめポイント】
- 埼玉で数店舗展開するラーメンチェーン
- 店側が新日好きのようで、店内はプロレス一色。長州力の技をモジッたメニューもあるが、全般に猪木色が強い
- 名前のインパクトの割に、味は意外と優しいというギャップ萌え
COFFEE HOUSE とむとむ つくば店
つくば店の外観（とむとむ提供）
【刈部さんのおすすめポイント】
- モスグリーンのドーム型店舗がとにかくインパクトあり
- 明るいウッディな店内は広く、どこから集まってくるのかと思うほど人であふれている
- コーヒー豆はスペシャルティグレードの本格派。スイーツも揃って、女性客が多い
コーヒーと「とむとむ風シベリア」（とむとむ提供）
ハングリータイガー 保土ヶ谷本店
保土ヶ谷本店の外観（ハングリータイガー提供）
【刈部さんのおすすめポイント】
- 客前でハンバーグを切り、仕上げの焼きをするスタイルの元祖
- 上質な牛肉100％のリッチなハンバーグを豪快に味わいたい
- ファミレススタイルの店舗としても歴史があり、家族連れが中心
オリジナルハンバーグ（ハングリータイガー提供）
今回のように目的のお店へドライブするのもいいと思うし、たまたま見かけたロードサイドグルメに寄ってみるのもいいかもしれない。きっと新しい世界が開けるはずだ。
編集：はてな編集部
