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イミテーション文学 Vol.2

Vol.2 もしも、吾輩がステイホームを経験したら…

一人暮らしの温厚なご婦人に拾われ、猫冥利につきる安穏とした日々を送っていた吾輩。ところがある時からご主人さまは家に引きこもるようになり、様子も少しずつ変わり始め、吾輩の心配は募るばかり。。。―― 夏目漱石の名著『吾輩は猫である』を現代に置き換え、ステイホームな日々を猫目線で見つめてみました。
果たしてその顛末や如何に!?

吾輩のステイホームな冬物語

夏目漱石『吾輩は猫である』より

 吾輩は猫である。名前はまだない。木枯らしの吹く寒い晩、若いご婦人に拾われた。
そのご婦人、すなわちご主人さまは、毎朝家を出て、夜に帰ってくる。どうやらオフィスとやらに用事があるらしい。
家に戻るとご主人さまは吾輩をいたく可愛がり、吾輩にとっては猫冥利につきる日々を過ごしていた

 ところがある時から、ご主人さまは家を出なくなった。どうやらステイホームというものらしい。出かけなくなった代わりに、毎日パソコンにかじりつき、リモート会議やら、リモート飲み会、リモート診断や、挙げ句の果てにリモート恋愛とやらまで始まった。
最初は毎晩楽しそうにリモート彼氏と話を弾ませていたご主人さまだが、ステイホームが長引くうちに雲行きが怪しくなり、なにやら独り言も多くなった。
吾輩はどんどん心配になってくる。ゴロゴロと甘えてみるが、ご主人さまは上の空。
そうこうしているうちに、ご主人さまのリモート恋愛はあっさりと、結局リモートのままふられてしまった。

 その夜、ご主人さまは失恋の腹いせにリモート飲み会で泥酔してしまう。
吾輩はご主人さまが眠っている隙に、おこぼれのチューハイとやらをちょいと舐めてみた。うまい!すると、どうだろう、体の中がポカポカ温まり、気がつくと吾輩も酔っ払ったのか心地よい夢の中を漂っていた。

夢の中で、ご主人さまはリモートではない彼氏と幸せそうに過ごしていた。しかも吾輩の大の苦手の赤ん坊までオギャーと泣いている。周囲にはお友達らしき方々も大勢いて祝福の嵐。
吾輩は思った。ああ、もしかしてこれが人の幸せか・・・?気ままな一人暮らしが好きな猫と違い、人間は人と人の関係を大事にする。そうか。そういうものなのか・・・?

しばらくすると、吾輩は温かく柔らかな腕に抱かれるのを感じ、ぼんやり目を開けた。
泣きはらした顔のご主人さまが優しい笑顔で吾輩を抱きしめてくれていた。ふむふむ、ご主人さま、どうやら早々にふっきれたようである。

 それから時が経ち、ある日ご主人さまは珍しくウキウキと外出。次の日にはご主人さまの女友達が家へと遊びに来た。そうこうするうちに、週に3日はご主人さまも出勤するようになり、少しずつ、吾輩の身辺は賑やかになってきた。

そしてある晩、ご主人さまは同じ年頃のハンサムな青年と二人して帰宅する。
吾輩はなぜかそこに居づらくなり、自分のベッドから様子を伺うことにした。ああ、これはいつかの夢で見た光景であった。吾輩も見たことのないような笑顔で楽しそうに青年と話すご主人さま。青年の風情も、まぁまぁ吾輩の許容範囲内としておこう。

 そんな光景を眺めながら、吾輩は一人決意したのであった。そう、潮時であった。この調子では、いつか吾輩の苦手な赤ん坊がどこからともなく現れるに違いない。そうなる前に、吾輩は潔く身を引こう。そしてまた新しい街へと旅立つのだ。
それにしても、吾輩にはよくわからないが、人間という生き物はおもしろく、不思議である。「お家が一番!」と喜んだかと思うと、いざ閉じ込められると我慢ができない。そしてノラのように屋外へ解放されることに喜びを感じながら、そのくせ、またまた家に戻ってくる。

吾輩はそんなことを考えながら、久しぶりに外の空気を体中に吸い込んだ。
近くの商店街からだろうか、かすかに陽気なクリスマスソングが響いている。
やはり外は最高だ。このまま気楽にノラで行こう。そう、猫にニューノーマルはない。常にわが道を行く、フォーエバーノーマルしかないのである。

さて、あなたのニューノーマルはどんなかたちに?

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