MS&AD 三井住友海上火災保険株式会社
イミテーション文学 第1回

もしも、あの時、主人公が、違う選択をしたら…。もしも、まったく違う性格だったら…。そんな設定で、新しい切り口の読み物をつくってみました。そしてこれが、もしも、あなたの場合だったら…。思いもよらぬ空想の世界を広げてみませんか?

Vol.1 もしも、メロスが令和のサラリーマンだったら。

暴君の手から親友の命と民の平和を守るために、約束の日時までに王城に戻らなければならない!困難に立ち向かい走り続けるメロス。果たして彼は約束を果たすことができるのか?—— 太宰治の名著『走れメロス』を現代に置き換え、ちょっとお調子者のサラリーマン「メロス」として蘇らせました。令和のメロスの顛末はいかに!? その走りの行く末に注目です。

もしも、メロスが
令和のサラリーマンだったら。

太宰 治「走れメロス」より

 メロスは激怒した。真夏の蒸し暑さの中、駅に向かい走りながら、メロスの頭は愚痴でいっぱいだった。あの上司とは、どうも反りが合わない。取引先の終業時間までに書類を届けろとか、こんなギリギリの時間になって平気で言うし。取引先までは電車を乗り継いでも1時間近くはかかる。他にバイク便とか手もあるだろうに。

 ブツブツ文句を言いつつも、メロスは素直な男だった。加えて上司には多少の借りがある。メロスの犯した小さなミスを収めてもらった過去があった。そのことをいつまでも恩着せがましく言われていたので、これは借りを返す絶好のチャンスでもある。さらに、メロスにはもうひとつ、急ぐべき理由があった。今夜は大事なデートの約束があるのだ。彼女のためにも遅れるわけにはいかない。

 大汗をかきながらようやく着いた駅には、なぜか人がごった返していた。メロスの脳裏に悪い予感が走った。そして案の定、予感は的中した。始まりかけた帰宅ラッシュに追い討ちをかけるように、事故で電車が止まっていたのである。どうする自分?メロスは素早くスマートフォンを鞄から取り出し、アプリで別ルートを検索、さらに500mほど先の駅まで走り、別路線に乗り換え、やや遠回りながらも目的地へたどり着く方法を選択した。急げ、ともかくさっさとこの用事を済ませよう。そして数時間後には余裕で彼女と美味しい食事だ!

 目指す駅へと慌てて走りながら、一方でメロスの胸中には、上司から託された書類の存在に疑問が浮かんでいた。一体、それほど急を要する書類って、あるものだろうか?そもそも、大事な用件なら一刻も早く電話やメールで伝えないか?それに、終業時間までに届けろということは、別の言い方をすれば、明日の朝一番に届いていれば問題ない、ということでもあるのではないか?

 メロスは、どちらかといえば都合の良い男でもあった。一度思い至ったことは、そうに違いないと信じ込む単純な性分を持ち合わせていた。メロスは自問自答した。どのみちこんな状況で時間内に届けるなど難しい。もし、自分が間に合わなくても、それは電車遅延のせい、さらには用事をギリギリになって人に頼んだ上司のせいとも言える。そう思い至った瞬間、メロスの胸中はパッと明るくなった。よし決めた。この書類は明日の朝一番、取引先に届けることにしよう。自分はここまでやったので、問題ない!こうしてメロスは、潔く、走るのを止めたのである。

 思いもかけず早い帰社が叶い、彼女とのデートでは充実の時間を過ごしたメロス。ほろ酔いの上機嫌で一人帰宅し、テレビをつけると、ちょうど野球ナイターが終盤を迎えるところだった。ん?と、画面を見やったメロスは、息を呑んだ。

 バッターボックスのその向こう、ネット裏の正面席に、見覚えのある顔が映ったのである。驚くことに、そこにはあの上司が一人、苦虫を潰した顔で座っている。しかも、その隣はポッカリと不気味な空席だ。次の瞬間、メロスは思わず叫んだ「まさか!ちょっと待て、もしかして、あの書類の中身って」慌てて明日朝一番で届ける予定の紙封筒を掴むと、はずみで中から幾枚かの書類と共に、小さな紙片が1枚、ヒラヒラと床にこぼれ落ちた。

 薄々感じた予想通り、その紙片はまぎれもなく、当夜の野球ナイター観戦招待券だったのである。メロスはがっくりと膝をつき、天井を見上げ、力なく呟いた。「ああ、ボス。自分、またやっちまいました…。」メロスの背後では、球宴の賑々しい歓声と上司からの着信音が虚しく響きわたるばかりであった。。。

サラリーマン生活は長いのです。軽率短慮は慎んで、油断は程々に。。
…さあ、あなたなら、どう乗り切る?!!

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

このコンテンツに対する感想を
お聞かせください!

アンケートにご協力いただき
ありがとうございました

よろしければ、
このコンテンツについてのご意見を
お聞かせください。

0/250

このフォームでは、個別のお問い合わせへの回答はしておりません。ご了承ください。

貴重なご意見を、
ありがとうございました。
今後の参考にさせて
いただきます。