1. 不成功無報酬の原則

船舶の救助は、気象、海象などの条件に影響されることが多く、必ず成功するとは限りません。このような海難救助の特殊性を背景にして、「救助成功の時には報酬を支払うが、不成功の時には救助業者の支出した費用といえども一切の費用を支払わない」という内容の不成功無報酬(No Cure No Pay)契約が今日一般的に用いられています。
また、この不成功無報酬契約を始め、他の契約においてもそれぞれ定型の契約書式になっていますので、事前にその主な特色を理解しておけば、救助契約を締結される際の選択、および報酬の支払いにつき有利に進めることができます。

不成功無報酬契約の主な定型書式である「ロイズ救助契約標準書式」、「日本海運集会所書式」を中心に主な救助契約の特色を以下に説明します。

不成功無報酬契約の特色

この契約では救助不成功の場合には実費も含め、一切支払われません。
そのため、救助業者は救助が成功するよう全力をつくすことになります。また報酬が必ずしも実費を基準にして査定されず、被救助物件の価額が重視されるので、損害が増大しないように救助の早期完了に最善をつくすと考えられるので、滞船損害の軽減、船体や積荷の損害を軽減する効果が期待されます。

一方、救助が成功し被救助物件の価額が十分確保される場合の救助報酬は、救助実費を大幅に上まわる金額となります。特に「ロイズ救助契約標準書式」での救助の場合には、救助報酬が高額となりますので注意が必要です。

従って、救助の成功が100%確実な場合や、危険の少ない曳航作業の場合は、この不成功無報酬契約以外の契約で救助を依頼するのが得策です。

2. 日本海運集会所書式(JSE フォーム)

(1)不成功無報酬

不成功無報酬(No Cure No Pay)を原則とする救助契約で、原則として日本の救助業者による日本関係船の救助の場合に用いられています。この書式は一般社団法人日本海運集会所で制定されたものです。

(2)報酬

この契約書式の最大の特色は、救助報酬の決定における基準であり、ロイズ救助契約標準書式(LOF)が救助された財産の価額に基づくのに対し、救助実費を基準としてその額が決められる点です。
救助が成功したときには報酬を支払うことになりますが、この報酬は「実費+ボーナス」という考え方で計算され、関係者の間で協定されます。

実費というのは、救助業者が実際に支出した費用のことで、使用した曳船や作業船、資材などの費用、および技師や作業員の人件費などからなっています。
これにボーナス即ち成功報酬を加算するのですが、ボーナスは救助活動の困難さ、救助した船舶と積荷の価額などを考慮して協定します。成功した場合は通常少なくとも50%程度は認容されることが妥当という考え方が最近の傾向です。
もちろん高度な技術、救助作業員のさらされた危険、日数の短縮などはさらに高く評価されるべきで100%を上まわるボーナスもあり得ます。

(3)東南アジア地区における適用

このJSEフォームは最近東南アジア地区の救助業者も理解するようになり、しばしば日本関係船の救助においては本書式の使用を特に抵抗なく受け入れるようになってきています。従って外国であっても会社(船主)、保険会社とよく連絡の上、本書式の使用を申し入れることが賢明な場合が多いと思われます。

日本海運集会所書式の主な特色

  • (a)救助報酬金額の決定については、当事者間での協議を原則とする。
  • (b)斡旋の制度

    上記の協議が整わないときには、海運集会所海難救助報酬斡旋委員会に斡旋を求めることができる。

  • (c)救助業者は救助作業中に本船から油が流出しないように最善の努力をすることを求められる。
  • (d)不成功無報酬の例外規定
    [1]特別補償と[2]特約条項の2つが不成功無報酬の例外規定であり、[1]はLOF2000のD条、[2]はSCOPIC条項の規定にならったものである。
  • (e)救助報酬の支払い、担保の提供については、本船および積荷その他の財貨それぞれの所有者がその被救助財貨の価額に応じて独立して分担する。
  • (f)被救助者の協力義務の規定
  • (g)救助業者は、救助期間中、毎日本船の状態および作業の状況を本船船長および船主に報告しなければならない。

3. ロイズ救助契約標準書式(Lloyd's Standard Form of Salvage Agreement

代表的な国際的契約書式で、外国の救助業者はほとんど使用しており、また日本の救助業者も外国船の救助の場合に使用しています。
この書式はロンドンのロイズ評議会が承認したもので、1908年の制定以来、時代の変遷とともに改訂されてきました。書式中の救助報酬額を空欄(Open)にしたまま契約が締結されることにから、別名Lloyd's Open Form(LOF)とも呼ばれています。
LOFの最大の特色は、①救助報酬額はロイズ評議会の仲裁で決定されること②その際、被救助財産の価額が重視されることです。
近年では、環境問題の影響を大きく受け、1989年海難救助条約の成立によって、財物救助とともに、環境損害を防止することが重要視され、「LOF1980」に始まり、「LOF1990」、「LOF1995」を経て2000年9月1日「LOF2000」が発足しました。
一方、救助条約に定める環境損害防止のための特別補償に代替する「SCOPIC (Special Compensation P&I Club)」条項が1999年8月に制定され、2000年9月1日より「SCOPIC 2000」として改訂版が登場しております。LOFの契約時に救助業者がSCOPIC条項を選択するかどうかを決めることになります。

LOFの主な特色

  • (a)ロイズ評議会での仲裁による救助報酬額の決定~当事者間の話合いでも可。
  • (b)仲裁は2審制
  • (c) 救助業者は救助成功の際に被救助財産の所有者に対し担保の提供を求めることができる。
  • (d)救助業者は環境損害防止・軽減に努めなければならない。
  • (e)救助が不成功に終った場合でも、救助条約に基づき環境損害防止のための費用(特別補償)は実費に30~100%の割増金を付加して支払われるが、あらかじめSCOPIC条項が付帯されていれば、その発動により規定のSCOPIC報酬が特別補償の代わりに支払われる。
  • (f)契約の準拠法は原則英法である。
  • (g)LOF2000から、救助契約書がリフォームされ、契約書本体と仲裁に関する手続き、運営的規則は分離され、一枚のシートとして単純化された。

ご注意

LOFでの契約締結にあたっては、後日巨額の救助報酬の請求がなされる可能性があることを念頭に置き、一刻を争うような悪化した遭難状況の場合を除き、事前に会社へ連絡し十分相談の上、船長は契約書にサインをするかどうかの判断を求めるよう注意してください。
また、LOFの契約において書式は必ずしも定型のものに限られず、紙片に“LOFによる No cure No pay”の契約である旨書いたものでも有効だと考えられていますので、救助業者(専門業者、Tug業者を問わず)が提示する救助契約の書式はなんであるかに十分注意してください。
北西ヨーロッパの沿岸、河口、河川でよく発生するケースを紹介します。それは、本船の船長が救助契約によらずに(救助契約という認識なしに)曳航契約の一環の作業という認識で、曳船に本船の支援作業を行わせたという場合で、作業後、曳船側から「救助作業をおこなった!」と主張されるようなケースです。これを「Alleged Salvage」と称しますが、十分に状況を把握した上で対処することが必要です。

4. SCOPIC条項―「SCOPIC 2000」

1997年イギリスの最高裁である貴族院はナガサキ・スピリッツ号事件(1992年マラッカ海峡においてコンテナ船と衝突、タンカーの原油が流出し両船とも炎上した事故に係わる救助契約上の争い)において、救助条約14条の特別補償における適正料金には利益は含まないと判決したことから、救助業者に不満の声があがり、ロンドンマーケットの救助業者、P&Iクラブが中心となって、1999年8月1日SCOPIC条項がLOFの追加条項として誕生しました。
SCOPICとは前述しましたように、Special Compensation P&I Clubの頭文字をとったものですが、LOFに導入された救助条約14条の特別補償に代わるものとして、タリフ化したSCOPIC報酬を定め、救助者は「環境損害の恐れ」の有無にかかわらず、いつでもSCOPIC条項が発動できる内容となっております。
この制度として、船主(P&I)はSCR(船主の事故代理店)と呼ばれる専門家を現場に派遣し、財物保険者も特別代理人を任命できることになりました。SCOPIC報酬に対してはP&Iが保証状を発行します。
なお、LOFによる救助作業は、救助者がSCOPIC条項を発動しても、引き続き救助条約13条に従って算定され、SCOPIC報酬はその13条報酬を超える金額に限定されます。