1. 応急処置

一般的に火災には可燃性物質、酸素の供給、熱の三要素の存在が関係しますので、いったん火災が発生したときは、まず酸素の供給をしゃ断し延焼防止に努めることが不可欠です。人命の安全、次に船体・積荷への拡大を防ぐために次のような処置を状況に応じ可能な限り行うことが必要です。

  • (a)操船:延焼を防ぐために船の行脚を止め、火災個所が風下になるように転針操船します。
  • (b)通風しゃ断:火災現場付近から順次に開口部(入口、とびら、舷窓、天窓、通風筒など)を密閉し、内部に消化剤の投入または注水を行い、火勢の拡大防止に努めます。いったん密閉した区画は鎮火後も十分な時間をおいてから開けてください。
  • (c)電流しゃ断:火災現場に通じている電流はすべてしゃ断します。
  • (d)可燃物の除去:火元付近にある可燃性または爆発性物質は、迅速に移動させ、必要に応じて船外に投棄します。

2. 消火方法

火災発生の場所、燃焼物の種類に応じた適切な消火方法を選ぶことが必要です。
主な消火方法は次の通りです。

(1)注水消火

通常使われる方法ですが、注水すると船は沈下しますからビルジの排水も同時に行います。

(2)炭酸ガス(CO2)消火

火災現場を密閉したうえで、その区画に炭酸ガスを注入消火する方法で、ホールド内の火災発生時によく使用されます。炭酸ガスを注入する際には該当区画からの全員退避を必ず確認してください。炭酸ガスは逃げやすい性質なので連続注入して完全鎮火させることが重要です。

(3)蒸気消火

油送船の場合、タンク内に蒸気を注入し消火します。そして延焼防止のため、単に出火しているタンクだけでなく、隣接タンクやコファーダムにも注入することが大切です。

(4)泡沫消火

油類の消火にはもっとも有効な方法なので機関室などの火災には適した消火方法です。ただ機関室の場合、その床面全体に15センチ以上の泡沫を放出しないと効果的でないという実験結果がでています。

3. 本船からの連絡事項

会社への連絡事項は次の通りです。

火災事故報告項目

  • 出帆地、仕向地
  • 火災発生日時
  • 火災発生時の本船位置
  • 出火の箇所
  • 出火の原因
  • 人命損傷の有無
  • 現在着手中または計画中の処置
  • 船体損傷箇所、程度
  • 積荷の種類、数量および危険貨物の有無
  • 積荷の損傷、程度
  • 天候、風力、波浪
  • 救助の要否
  • 鎮火の見込
  • 鎮火した場合はその日時と損傷程度

4. 鎮火後の処置

(1)監視

一応消火に成功した後でも場合によっては完全に鎮火しているかどうか監視を続ける必要があります。

(2)損害調査

事後の本船の修理・積荷の処置の方向づけをするために、完全鎮火および安全を確認した後、マスクなどを使用して火災による損害程度を調査することが必要です。

(3)堪航証明、共同海損鑑定(G.A.Survey)、海難報告書

座礁の場合に準じてそれぞれ手配します。

5. 注意すべき点

(1)火災の早期発見体制

火災は早期に発見して適切な措置をとれば、消火も容易ですが、一旦燃え広がってしまうと、なかなか消火が困難となり損害も大きくなるだけでなく、非常に危険な状態となります。
従って、火災をいち早く発見し消火するために、船内の定時巡検の実施と、火災探知警報装置をいつも正常に作動させておくことが必要です。
万一これらの処置が不充分であると、積荷関係者から求償されることがあります。

(2)火災原因の究明

以後の事故再発防止のために火災の原因の究明が重要です。

特に損害額が大きい場合、あるいは積荷等の関係者の利害が複雑な場合等で、海外においては火災の専門家(ファイアー・エキスパート)の調査が入り原因を究明することがあります。

(3)救助業者による消火活動

専門の救助業者の救助船が来援して消火活動を行った場合で、特に外地においてロイズ・オープンフォームで依頼した場合、その救助報酬は高額となる傾向にあります。
これは救助作業が他の事故に比べて危険度が高いと考えられているからです。