1. 応急処置

(1)人命救助、相手船救助

本船の人命に危険がある場合は直ちに人命救助の手段をとるべきですが、自船に急迫した危険がないときには相手船の近くにいて相手船の人命ならびに船体の救助に従事しなければなりません。(船員法第14条)
本船または相手船の損害程度により早急な救援が必要と判断される場合には、緊急通信または遭難通信を発信することも必要です。

(2)損傷調査

本船の損傷箇所、浸水の有無を調査し、その程度に応じて防水または排水などの応急処置をとって損害の拡大を防止します。

(3)任意座州

防水、排水しても浸水がひどく、沈没の危険があり、かつ状況が許すときは付近の適当な浅瀬を選んで任意座州することも考えられます。

(4)衝突相手船の確認

衝突相手船の船主、船名、船籍港、航路を速やかに聴取してください。
(同時に相手船からも同じ内容の確認が要求されます。)
さらにできれば、相手船の衝突当時の模様、損傷状態の概略を調査、記録しておくよう努めてください。

2. 本船からの連絡事項

会社へは事故発生後、直ちに下記事項についての報告が必要です。なお、時機を失しないよう判明した事項から逐次連絡すればよく、本船からの連絡を受けたら直ちに当社へもご連絡ください。迅速な連絡は相手側との交渉、弁護士手配において、先手をとって行うために不可欠です。

衝突事故報告項目(第一報)

  • 出帆地、仕向地
  • 衝突日時
  • 衝突位置
  • 衝突の状況・原因(速力、船体部位、主機の使用、衝突前の転舵)
  • レーダー使用状況(プロッティング)
  • エンジンロガー、コースレコード
  • 当時の天候、視程、風向、風力、波浪、潮流
  • 本船損傷箇所、程度、浸水および油流出の有無
  • 本船積荷の種類、数量、損害の有無
  • 相手船

    船主、船名、船籍港、総トン数、出帆地、仕向地、損傷個所、程度、浸水および油流出の有無、積荷の種類、数量、損害の有無

  • 両船人命損傷の有無
  • 衝突後の処置(現在着手中または計画中の処置)
  • 本船航行の可否
  • 救助船の要否
  • 事故後本船へ来た関係者の名前、所属(官庁、会社名他)および来船の目的
  • 相手船から何らかの申し入れ、要求があった場合その内容、特に保証状の要求の有無とその内容

3. 安全確保後の処置

(1)衝突状況の記録

衝突当時の事情について、乗組員の記憶が新しい間に下記事項について関係者から聴取して記録にまとめるとともに、衝突状況図を作成しておくことが大切です。

衝突事故に関する船長報告

(a)衝突時の状況
  • (イ)衝突の時刻(船橋と機関室との照合)
  • (ロ)位置(経度、緯度、陸標があればその方向、距離)
  • (ハ)速力(機関の使用状況)
  • (二)船首方位
  • (ホ)衝突角度
  • (へ)衝突箇所
  • (ト)天候、視程、風向、風力、波浪
  • (チ)衝突時の当直者氏名、職名
(b)相手船の初認の状況
  • (イ)相手船の初認の時刻・方位・距離
  • (ロ)灯火の種類(夜間の場合)
  • (ハ)本船と相手船の針路、速力、航過の推定
  • (二)視程(霧などの場合)
(c)衝突直前に本船のとった処置
  • (イ)信号
  • (ロ)錨の使用状況
  • (ハ)転舵状況
  • (二)機関の使用状況
(d)その他
  • (イ)相手船の方位、距離の変化(初認-衝突)
  • (ロ)見張りの状況(レーダー使用状況など)
  • (ハ)コースレコーダー使用の有無

(2)現認書のとりかわしとNotice of Claimの通告

衝突の状況からみて、一方的に相手船に責任があると判断されるときは、責任を認める文言を入れた現認書を相手船から取付け、後日賠償請求するための資料とすることが大切です。

また両船ともに過失があるときでも損傷個所確認のために現認書を取りかわし、相手船が外国船の場合は、そのほかに相手船長あての文書で通告(Claim Notice)することも必要です。

反対に相手船側からの現認書、念書などに責任を認めさせられる文言があるときは署名することを避け、どうしても避けられないときは、責任を認める文言を抹消して損傷の現認にとどめるようにしてください。

(3)損傷検査(ダメージ・サーベイ)の実施

保険会社は必要に応じて、損傷検査員(ダメージ・サーベイヤー)を手配し本船の損傷状況を調査します。このサーベイヤーは船体保険のためのサーベイヤーであり、船級検査員ではありません。

また、同時に相手船の損害状況を調査するために相手船の検査(カウンターサーベイまたはW.P.サーベイ)を手配します。

(4)弁護士の委嘱

保険会社は会社(船主)と打ち合わせの上、相手船との交渉のために、弁護士を委嘱することもあります。弁護士は本船の乗組員から事情聴取を行い、後日の衝突責任の交渉に備えて、必要な証拠、書類の収集を行いますので調査にご協力ください。

また、弁護士は相手船側との交渉窓口となりますので、相手船側からの接触があった場合には会社(船主)あるいは弁護士の指示に従ってください。

なお、船長が判断に迷うことや不明なことがあれば、弁護士にアドバイスを求めてください。

(5)海難報告書の作成

前記(1)の打合せ内容を基礎にして、後日紛争の種とならないよう十分に検討の上、作成することが必要です。

相手船から取りつける現認書の例

平成●●年●月●日

現 認 書

汽船井住丸船長
○○○殿(本船船長名)

汽船三友丸

△△△△(相手船船長名)

平成●●年●月●日午前12時00分頃、室蘭港富士鉄埠頭において接岸操船中・不測の潮流に圧流され同埠頭係留中の貴船左舷尾に本船右舷首接触、下記の損傷を与えたことを現認します。

-記-

  • 1.左舷尾楼外板H-2, J-2, Fr.No.2~6に(-)40m/m×1,200m/m×2,500m/mの凹損
  • 2.同所フレームNo.3,4,5曲損
  • 3.同所ドラフト読取用ステップ約1,500m/m曲損

以上

クレームノーティス(Claim notice)の例

October 1, 20●●

TO THE MASTER AND OWNERS OF THE M. S. ○○○(相手船)

Dear Sirs,

M. S. ○○○Maru / M. S. △△△COLLISION
September 30, 20●● at Tokyo Bay

This is to inform you that your vessel M. S. ○○○ collided with our M.S. △△△making on way through the water in fog off No. 2 Kaiho of Tokyo Bay at approximately 0236 hours on September 30.
Therefore, I, on behalf of my owners, charterers, their underwriters and all the concerned, hereby hold you wholly responsible for all the damages caused and for all the consequence arising therefrom.

Yours faithfully,

MASTER OF M.S.“△△△”(本船)

Acknowledged and Accepted
MASTER M. S. ○○○

ご注意

(1)本船への来船者に対する応対

衝突事故の場合には多くの関係者が本船に接触してきます。これらの中には本船側だけでなく、相手船側の弁護士やサーベイヤーなど本船側と利害が相反する立場の人も含まれていますので、その人の立場をよく判別した上で応対することが必要となります。

  • 相手船が依頼した弁護士やサーベイヤーに対しては、会社(船主)または本船側弁護士の承諾のない限り、面談を断っても差し支えありません。
  • 会社および本船側弁護士から指示があったときでも、発言には十分に注意し、船長および当直乗組員だけで応対し、他の乗組員とは面談させないよう配慮してください。
  • 相手方から求められても航海日誌、記録などを見せる必要はありません。

(2)海外における代理店への説明

海外における衝突の場合、会社は現地に船主代理店を任命することが事情によっては必要となりますが、この場合その代理店に衝突による相手船との損害賠償は船体保険会社と相談して行う旨説明しておいた方が良いでしょう。これは海外では衝突による相手船との交渉も船主責任保険組合(P.I.クラブ)
が行うことが一般的であるため、船主代理店が誤ってP.I.の代理店やサーベイヤーへ連絡をとることがあるからです。

(3)日ごろの当直体制および乗組員への教育体制

日ごろより万全の当直体制を整え、また会社として本船の乗組員に対し十分な教育を行い、航海に関する技術水準を維持しておくことは当然です。

この点において海外、特にアメリカ合衆国では、船主に対する要求が非常に厳しく、衝突により自船の積荷に損害が生じた場合、その積荷関係者から本船が求償されることや船主責任制限も認められないこともありますので注意が必要です。