1. 共同海損とは

共同海損とは、航海中に生じた損害あるいは費用をその海上事業に加わっている関係者(船主や用船者、荷主等)で分担しあうという制度です。

  • 共同海損とは、「共同海損行為」が行われ、その行為の結果として航海中に生じた損害あるいは費用をその海上事業に加わっている利害関係者(船主や用船者、荷主等)で分担しあうという制度です。
  • 共同海損の原則や精算方法は、ヨーク・アントワープ規則(Y.A.ルール)という統一国際規則に規定されています。

2. 共同海損の例

共同海損には共同海損費用と共同海損犠牲損害があります。

(1)共同海損が成立する代表例

  • 船舶が座礁した場合の再浮揚のための救助作業。例えば救助船による離礁作業、またはその時船脚を軽くするために行う投荷や瀬取作業。
  • 船火事の消火作業のために、水または消火剤により生じた貨物の損害。
  • 船舶の機関に事故が生じて航行不能に陥り、救助船等で曳航する行為。

(2)共同海損費用と共同海損犠牲損害

上記例で言えば次の通りです。

  • 共同海損費用:救助費、瀬取作業や消火作業の費用
  • 共同海損犠牲損害:投荷や消火水による貨物の損害

3. 共同海損と貨物海上保険

共同海損は貨物海上保険で補償されています。

  • 共同海損は海上保険とは別に発達してきた海上運送に特有の制度ですが、現在では原則として貨物海上保険の補償の対象となっています。
  • 共同海損犠牲損害:異常な犠牲の結果、お客さまの貨物に損害が発生した場合には、保険会社から直接(共同海損の精算とは無関係に)その損害につき全額保険金を受け取ることができます。
  • 共同海損費用:後日(共同海損の精算によって)決定されるお客さまの負担すべき分担額だけがお支払いの対象となります。ただし、こうした費用は、当初は一旦船舶側で立て替えるのが一般的です。

4. 共同海損のお手続き

共同海損が宣言されると、船会社の求めている手続きが完了するまでは、貨物の引渡しが受けられません。

船会社から共同海損宣言の通知を受け次第、三井住友海上あてにご連絡ください。必要な手続きは次の通りです。

(1)船会社の共同海損の宣言

共同海損が発生すると直ちに船会社または共同海損精算人から関係荷主に対して、共同海損宣言状(G.A.Declaration Letter)で次の点が通知されます。

  • 事故の概要とそれによる損害を共同海損として処理すること・そのために共同海損精算人を選任したこと
  • 貨物の引渡しに先立ち、必要書類を船会社(精算人)へ提出すべきこと

(2)三井住友海上への連絡

船会社から上記の共同海損の通知を受けたら、すぐに担当グループまでご連絡ください。必要書類をご提出いただくとともにL/G(共同海損分担保証状)の発行をご請求ください。
お客さまにご提出いただく書類のうち、共同海損盟約書仕切状についてご説明します。

共同海損盟約書(Average Bond
  • お客さま(荷主殿)が船主に対して、当該事故を共同海損として処理することを承認し、後日割り当てられる共同海損分担額を支払い、また、お客さま(荷主殿)が船主に対して貨物の正当な価額を申告することを約束する一種の契約書(念書)です。お客さま(荷主殿)による必要事項の記入および署名が求められます。
仕切状(Invoice
  • 貨物の負担価格を決めるために最も重要な書類です。仕切状がCIFではなく、FOBの場合には保険料と運賃の請求書を、C&Fの場合は保険料の請求書を提出するよう求められます。

(3)共同海損分担保証状(Letter of Guarantee:L/G)の発行

  • 必要書類をご提出いただいた後、三井住友海上よりL/Gを発行いたします。
  • その内容を要約すると、「保険会社が荷主殿に代わって共同海損、救助費、その他費用の分担額を支払う」というものです。
  • 船主がL/Gを要求するのは、共同海損盟約書に加えて、将来回収すべき共同海損貨物分担額の支払に対する具体的な保証を直接保険会社から確保するためです。
  • 三井住友海上が発行したL/Gを含む必要書類を船会社に提出することにより、お客さま(荷主殿)は船会社より貨物の引渡しを受けることができます。

(4)貨物に損害があった場合

  • 共同海損となったケースで、貨物にも損害があった場合、三井住友海上に対する保険金請求のお手続きは、共同海損とならない保険金請求のお手続きと全く同じです。
  • 確認された損害は、一般の保険金請求のお手続きと同様の手続きを経て先ずお客さま(荷主殿)に保険金をお支払いいたします。
  • 保険金をお支払いした損害は、その後すべて三井住友海上から共同海損精算人に報告され、共同海損犠牲損害は利害関係者により分担されるように、また、単独海損は負担価額から減額されるように精算されますので、お客さま(荷主殿)の共同海損分担額はそれに見合う分だけ減額されることとなります。
  • 保険条件等により保険金のお支払いを受けられない場合、またExcess(※1)あるいはFranchise(※2)未満の損害のように保険金のお支払いの対象にならないような損害でも、負担価額は軽減され分担額に影響しますので、このような場合も必ず三井住友海上あてにご連絡ください。
  • (※1)Excess:所定の金額を超える損害が生じた場合に、その超えた損害額に対して保険金を支払う方式。
  • (※2)Franchise:所定の金額以上の損害が生じた場合に、総損害額に対して保険金を支払う方式。

5. 保険金請求書のご提出

  • 共同海損が発生してから精算が完了するまでに、通常1年から3年の日数がかかります。衝突事件のように複雑な事故の場合には、5年ほどかかることもあります。
  • 共同海損が発生した場合、お客さま(荷主殿)が船会社に必要書類をご提出いただき、貨物の引渡しを受けられれば、それから後はお客さま(荷主殿)と船会社はほとんど直接の交渉がなくなります。
  • 共同海損の精算については、三井住友海上と船主あるいは海損精算人との間で交渉が行われることとなり、精算が完了すると精算書は三井住友海上に送付されて、共同海損分担額は最終的に三井住友海上によって支払われて完結します。

6. 海難救助

救助業者より保証状を求められた場合は直ちに三井住友海上へご連絡ください。船舶が座礁した時の再浮揚作業や機関故障の時の曳航作業などの救助作業は、通常共同海損行為の一つです。救助が成功した場合、救助業者は船主および荷主殿に対して、後日決定される救助報酬の保証として担保(保険会社の支払保証状)を要求してきます。

(1)救助業者から担保の要求があった場合

  • 救助業者が、お客さま(荷主殿)に担保の提出手配を要求してきた場合は、直ちに三井住友海上へご連絡ください。必要書類をご案内の上、速やかに保証状発行の手続きをいたします。
  • この保証状は救助業者への保証であって、先に述べた共同海損分担保証状とは別のものであることにご注意ください。
  • 三井住友海上への連絡が遅れますと、本船や積荷(被救助財貨)が差押さえられるという思わぬトラブルが生じることにもなりかねませんのでご注意ください。

(2)担保発行後の手続き

  • 担保(保証状)が発行され、救助完了後本船と積荷が解放されれば、お客さま(荷主殿)が救助業者と折衝することはほとんどなくなります。
  • 救助報酬額は、当事者間の交渉もしくは仲裁の裁定によって決定され、積荷の分担額が上記担保に基づき保険会社に直接請求され、貨物保険で補償されることとなります。

(3)救助費と共同海損の関係

  • 救助は通常共同海損の要件を満たしていますので、その報酬は最終的には共同海損の一部として処理されます。

共同海損 Q&A

Qエルジー(L/G)とは何ですか。
ALetter of Guaranteeの略で、共同海損の場合は共同海損分担保証状のことを指します。船主は共同海損の際、共同海損供託金(現金)を積むことあるいは保険会社の発行するL/Gを提出するよう要求してきます。これは、共同海損の成立から精算まで相当の日時を要するために、船主として将来回収すべき共同海損貨物分担額の支払いに対する具体的な保証を確保するためです。保証状の内容は要約すると、「保険会社が荷主に代わって共同海損、救助費、その他費用の分担額を支払う」というものです。船主にこの保証状を提出するか、もしくは供託金として現金を積まない限り、荷主殿は船会社より貨物の引渡しを受けられないこととなります。というのは、船主は貨物に対して共同海損に係わる海上債権(Maritime Lien)を有しているからです。共同海損のLetter of GuaranteeのことをAverage Guaranteeとも言います。また、救助作業を伴う場合、救助業者が同様に後日の回収のために要求するL/Gもあります。
Q共同海損の際に取り揃えなければならない書類は何ですか。
A

共同海損の際に貨物の引渡しを受けるためには次の書類が必要です。

(1)船主(精算人)に提出する書類
  • A 共同海損分担保証状(Letter of Guarantee:L/G):保険会社発行のもの(本紙)
  • B 共同海損盟約書(Average Bond):荷主殿署名のもの(本紙)
  • C 仕切状(Invoice):コピー

Bの書式は、通常、船主もしくは共同海損精算人から送られてきます。

(2)保険会社に提出する書類

上記(1)Aを保険会社が発行するためには次の書類をご提出いただく必要があります。

  • A 保険証券(Debit Note
  • B 共同海損宣言状(G.A.Declaration Letter):コピー
  • C 共同海損盟約書(Average Bond):荷主殿署名済みのコピー
  • D 仕切状(Invoice):コピー
  • E 船荷証券(Bill of Lading:B/L):コピー
Q共同海損に関する費用や損害を、荷主が負担することがありますか。
A

共同海損に認められた費用の貨物分担額や損害は、貨物保険で補償されますので、荷主殿が負担されることはまずありません。以下具体的にご説明します。

(1)費用について
共同海損に関わる費用(例えば貨物を代船に積替える費用など)は、通常、船主が一旦立て替えますのでその時点で荷主殿に請求されることはまれです。船主が支出した費用は後に精算され、各利害関係者により分担されますが、荷主殿の分担額は貨物保険で補償されることとなります。一方、荷主殿が支出を余儀無くされた費用があっても、それが共同海損に認められれば、後に精算され各利害関係者から回収できます。
(2)損害について
共同の安全のために意図的に財貨に加えられた損害(例えば投荷や消火剤による損害)を共同海損犠牲損害と言いますが、これは、直接その全額が貨物保険より補償されます。保険会社は、後の精算の中で各利害関係者からその分担額を回収します。共同海損犠牲損害以外の損害が貨物に発生した場合には、共同海損以外の保険金請求のお手続きと同様に、ご手配頂いている保険条件に照らして支払われるものであれば、保険会社が単独海損として保険金をお支払いします。
Qヨーク・アントワープ規則(Y.A.ルール)とは何ですか。
A共同海損に関する統一的国際規則のことで、1887年に制定され、その後改定、修正が加えられています。2004年に改定されたものが最新ですが、現在広く使用されているものは、1994年の規則です。ほとんどのB/Lや用船契約では、「共同海損の精算に関しては、ヨーク・アントワープ規則(1994年)に従う」ことが決められています。
Q共同海損精算人(General Average Adjuster)とは何ですか。
A共同海損につき専門的な知識を有する公平な第三者で、船主および船体保険者によって選任されるのが一般的です。共同海損の精算は各関係者の利害に大きな影響を与えるため、専門の共同海損精算人が任命され精算を行うことが通常です。
QG.A.サーベイヤー(G.A.Surveyor)とは何ですか。
A共同海損が発生した場合、船舶・貨物・運賃の関係者の利害を代表して事故の詳細、船体・積荷の損害調査を行ったり、共同海損行為やその費用、損害額の妥当性を検討するサーベイヤー(検査員)のことをいい、また、そのサーベイのことをGAサーベイと言います。通常は船主または精算人が手配します。
QLOFとは何ですか。
A広く国際的に採用されている救助契約であるロイズ救助契約標準書式(Lloyd's Standard Form of Salvage Agreement)のことを指します。その契約内容は不成功無報酬(No Cure- No Pay)が原則となっており、救助報酬は事前に決められずに、救助作業終了後、ロンドンで仲裁(Arbitration)にかけられ、救助された財貨の価額(Salved Value)、作業の難易度などにより決定されます。すなわちOpen契約(これに対して事前に救助報酬の額を決めるのをLump Sum契約という)となっています。そのため、Lloyd's Open Form(LOF)と呼ばれています。